アングル:「ドル等価」目前のユーロ、急反転で市場混乱の恐れも
Naomi Rovnick Dhara Ranasinghe [ロンドン 27日 ロイター] - ユーロは今月、2022年初頭以来で最大の月間下落率を記録しそうな勢いだ。夏には円相場が急騰して世界中の資産が混乱に陥ったが、今度はユーロ相場の急変動がそうした事態を再来させかねないとアナリストは警戒している。 ユーロは11月に入ってドルに対して3%強下落し、節目の1ユーロ=1ドルに迫っている。これは米国の強い経済成長見通しが米株とドルを押し上げている一方で、ユーロ圏はトランプ次期米大統領が提案する貿易関税や、域内の景気低迷、ロシア・ウクライナ戦争のエスカレートといった売り材料が重なっているためだ。 フランスの政局不透明感もユーロの逆風になりかねない。 ただ、投資家や為替トレーダーの間では、ユーロの今後の方向性について見方が分かれている。関税がインフレをもたらせばドルの下落要因になる上、米連邦債務上限の引き上げによって米市場・経済への信頼感が揺らぐことも予想されるからだ。 ユーロが一段と下落すれば不透明感が高まり、米株高とユーロの下落に賭ける「トランプ・トレード」が突如として反転する可能性もあるとアナリストはみている。 ソシエテ・ジェネラルのFXストラテジー責任者、キット・ジャックス氏は「人々は(ユーロとドルの)等価が突破されるのか、それとも急反転するのか、と考え始め、ボラティリティーが高まるだろう」と予想する。 「少なくとも、ユーロが上下いずれの方向に動くかという議論がもっと活発化するだろう。私としては、異なる資産同士の異常に高い相関が続くとは思えない」と同氏は語った。 8月の市場波乱はドル/円が急反転したことがきっかけだった。円安に賭けていたヘッジファンドは不意を突かれ、株式市場では追加証拠金を手当てするための売りが膨らんだ。 現在の市場はレバレッジの水準が高いため、8月と同様に市場で人気の「ストーリー」が急変するような出来事が起こった場合、市場は脆弱な状態にあると規制当局は警告を発してきた。 ジャックス氏は「(ユーロとドルの)等価が破られれば、また同じような話題になるだろう」と語った。 <市場全体に波及> ユーロ/ドルは世界で最も活発に取引されている通貨ペアであり、為替レートが急変すれば多国籍企業の収益が混乱し、ドル建てで貿易を行っている各国の経済・物価見通しも揺さぶられる。 バークレイズのFXストラテジー・グローバル責任者、テモス・フィオタキス氏は、「ユーロは指標通貨だ」と指摘。ユーロが一段と下落すれば、中国、韓国、スイスなど貿易に敏感な国々はドルに対する自国通貨の下落を容認することで、ユーロ圏に対する輸出競争力を保とうとするかもしれないと予想した。 トレーダーは、トランプ氏の政策による影響を予想して複数の資産のオプション契約を組み合わせる取引に殺到したとされる。例えば、ユーロの下落と米S&P500種総合株価指数の上昇に同時に賭けるトレードなどだ。それもあって、ユーロ/ドル相場の変動に対する市場の感応度は高まっている。 フィオタキス氏は「大勢の人々が仮定の結果に投資しようとしているのを目撃している」とし、そのために為替変動と金融市場全般との相関が高まる可能性があると述べた。 UBSのストラテジスト、アルビス・マリノ氏によると、投資家は市場が反転した場合のリスクを過小評価している。期間1カ月のユーロ/ドルのインプライドボラティリティー(予想変動率)は現在8%前後と、ユーロが直近で1ドルを割り込んだ2022年10月の約14%を大幅に下回っている。 「実際のFXのボラティリティーは高くなりそうで、市場が織り込んでいる水準より高いのは確かだ」とマリノ氏は語った。 <見通しが二分> 一方、長期投資を手がける資産運用会社の間では、今後のユーロ/ドルの方向性について見方が大きく分かれており、向こう数カ月間の乱高下を予想させる。 HSBCの富裕層資産運用部門でグローバル最高投資責任者(CIO)を務めるウェム・セルス氏は「ユーロは来年半ばまでに0.99ドルになると予想している」と述べた。 一方でアムンディのバンサン・モルティエCIOは、欧州中央銀行(ECB)の利下げがユーロ圏の企業と消費者支出を支える結果、ユーロは来年末頃までに1.16ドルに上昇すると予想した。 26日時点の為替オプション市場をみると、ユーロが年末に現水準の1ユーロ=1.047ドル前後を上回る確率は56%と予想されている。これに対してJPモルガンやドイツ銀行は、米国の関税次第で1ユーロ=1ドルに下落する可能性があるとしている。 しかしトランプ・トレードを支えるストーリーにも陰りが出始めているのかもしれない。ユーリゾン・SJL・キャピタルのスティーブン・ジェン最高経営責任者(CEO)は、トランプ次期政権が財政赤字を膨らませれば市場で米国債利回りが上昇し、政権が過度な借り入れによる減税を実施しにくくなるという「債券自警団」が登場する局面が訪れるかもしれないと指摘。利回り上昇によって金融環境が引き締まれば「米経済がソフトランディングして長期金利は低下」する結果、ドルは過大評価されているということになると予想した。