『仁義なき戦い』笠原和夫の幻の脚本で実現された映画『十一人の賊軍』…「東映集団時代劇」の歴史と「復活の意味」
60年代前半に生まれた新機軸
11月1日に公開された映画『十一人の賊軍』によって東映集団時代劇が復活した。幕末の動乱が続く慶応四年、官軍と旧幕府軍の板挟みとなった越後の小藩・新発田は両者を欺くため、国境の砦に罪人たちを送り込む。みな処刑を待つ身、生きて役目を果たせば無罪放免という状況で想定外の「戦」が始まる。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性 まず「東映集団時代劇」とはなにか――。より範囲を狭めて「東映集団抗争時代劇」とも称されるこのジャンルは、スター主義による時代劇が下火となった60年代前半に生まれた新機軸であり、まず数による集団性を際立たせている。そして従来の勧善懲悪や華麗なチャンバラではなく、ストーリー展開もふくめて生々しく容赦なきリアリズムがモノクロ画面に詰め込まれた。 その代表作は『十三人の刺客』(63年)。のちに「光と影の魔術師」と呼ばれた名匠・工藤栄一が監督であり、テレビドラマや映画として三度もリメイクされている。90年代には『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』(文春文庫ビジュアル版)で1位に選ばれるなど、高い評価を受けてきた作品だ。 東映時代劇の大御所・片岡千恵蔵を筆頭に里見浩太朗、嵐寛寿郎らが出演した『十三人の刺客』、将軍の異母弟にあたる播州明石の藩主松平斉韶の暴虐を止めるべく、島田新左衛門ら幕府旗本を中心にした暗殺隊が結成される。 参勤交代で斉韶の一行が明石に戻る途中、山深き落合宿を「要塞」に仕立てて刺客たちが待ち受ける。125分と当時の時代劇としては長尺で襲撃までのサスペンスを紡ぎ、ラスト30分の激しい集団戦が見せ場となった。迷路のような構造、罠に次ぐ罠の大アクションだが、同年公開の『血と砂の決斗』で作られた宿場のオープンセットを再利用という抜け目ない前提もあった。 当時、東映京都撮影所の企画部次長を務めた渡邊達人の回想録『私の東映30年』によると、ハンガリーの皇太子が暗殺された「サラエボの悲劇」をもとに発案され、脚本は池上金男に託された。のちに池上は作家・池宮彰一郎として小説『四十七人の刺客』を発表し、赤穂浪士による吉良邸討ち入り……いわゆる「忠臣蔵」を集団時代劇として活写。1994年には高倉健主演で東宝が映画化した。
【関連記事】
- 立教大学の助教授が「不倫相手の教え子」を殺害して一家心中…教え子が最期に残した「メッセージ」と遺体の発見場所…事件をもとにした名作ポルノの「封印」がいま解かれた理由
- 母親殺しの少女の無実を証明するために口紅を塗り…西田敏行さんが田舎刑事を演じた『特捜最前線』で魅せた「人情と暴走」
- 元暴力団組長が出資し、袴田事件の冤罪を訴えた「実録映画」の「知られざる秘話」…袴田巖さんを演じた「主演俳優」のハマりっぷり
- 滋賀の42歳独身女性銀行員が「10歳下のヒモ男」に貢ぐために「9億円横領」…女の「出世」が裏目に出た「衝撃の末路」…事件をもとにした作品で「史上最悪のヒモ男」を演じた「意外な俳優たち」
- 「あのシーンに興奮するなんて…」犯人は本当に『必殺仕置人』に刺激されて21歳女性を殺害したのか…川崎で起こった悲劇の「その後」