『仁義なき戦い』笠原和夫の幻の脚本で実現された映画『十一人の賊軍』…「東映集団時代劇」の歴史と「復活の意味」
中止に追い込まれた集団時代劇
その影響で中止となった集団時代劇もある。池上金男×工藤栄一の「雪の城」は御家断絶となった藩へと向かう武士の苦難を描いたもので、やがて『服部半蔵 影の軍団』第3話「悪魔が呼んだ奥州路」(80年)の元ネタとして使われ、池上=池宮彰一郎の短編小説「受城異聞記」となった。 のちに『仁義なき戦い』を手がける笠原和夫のシナリオ「十一人の賊軍」も当時の東映京都撮影所長・岡田茂の手でボツとなっている。しかし後年、笠原がその顛末を『昭和の劇』という大著で語ったことが60年後の復活につながった。東映実録路線を彷彿させる『孤狼の血』(18年)を監督し、シリーズ化を果たした白石和彌が幻の脚本に興味を示したことからプロデューサーの紀伊宗之が企画を立ち上げ、令和の大作として『十一人の賊軍』は実現した。 すでに脚本は残されておらず、わずか16ページのプロットをもとに池上純哉がシナリオ化。ともすれば鈍重となりがちな白石演出も初の時代劇『碁盤斬り』(24年)に続いて、その重みが重厚さへと昇華されている。155分という尺は東宝リメイク版『十三人の刺客』(10年)の141分を上回るが、なにせ『七人の侍』(54年)の207分という例もある。 たしかに長いが、長いばかりがハンデではないだろう。セットワークで時代劇ならではの技巧を凝らした『碁盤斬り』に対して、砦というロケ主体の『十一人の賊軍』は荒野に佇む西部劇のごとき風合いだ。 罪人たちの筆頭、駕籠政を演じた山田孝之は奇しくも『十三人の刺客』に出演しており、時代劇初挑戦の仲野太賀は新発田藩の鷲尾兵士郎として武士の覚悟を叩きつける。そのほか爺っつぁん役の本山力(東映剣会!)など、濃い顔ばかりが雁首そろえて過去を語ることなく目の前の修羅場に向き合う。
新たな「活劇の行方」
本作は砦を「守る」側を軸とした集団時代劇だが、寄せ集めゆえ一致団結とは程遠い。三つ巴の煩雑さのなか攻守交代のスイッチもあり、小藩による命がけの企みには幾重もの「残酷」が示される。殺陣や戊辰戦争といったキーワードをもとに、今年の大穴ヒット作『侍タイムスリッパー』との差異を見出すのもいいだろう。 さかのぼれば黒澤明の『七人の侍』もリアリズムに着目した集団時代劇であり、黒澤が脚本を手がけた『荒木又右衛門 決闘鍵屋の辻』(52年)もそうだ。「三十六人斬り」の講談となった鍵屋の辻の仇討ちは江戸時代に起きた実際の事件であり、少人数による行列への奇襲は集団時代劇の先駆けといえる。ということは戦前より何度となく、こうした映画が発表されていたことになる。 東映も路線変更のあと、工藤栄一の『十一人の侍』(67年)や千葉真一がアクション監督を務めた『将軍家光の乱心 激突』(89年)など時折その手の作品を発表していたが、近年は他社によるリメイクばかりが目立っていた。 ゆえにここ一番の大勝負、『十一人の賊軍』によって成し遂げられた東映集団時代劇の復活をよろこびたい。『SHOGUN 将軍』に『侍タイムスリッパー』と期せずして時代劇に沸く2024年、勝てば官軍、負ければ賊軍──興行としては苦戦を強いられてきたジャンルだが、はぐれ者たちの決死とともに新たな「活劇の行方」を体感しようではないか。
高鳥 都(ライター)
【関連記事】
- 立教大学の助教授が「不倫相手の教え子」を殺害して一家心中…教え子が最期に残した「メッセージ」と遺体の発見場所…事件をもとにした名作ポルノの「封印」がいま解かれた理由
- 母親殺しの少女の無実を証明するために口紅を塗り…西田敏行さんが田舎刑事を演じた『特捜最前線』で魅せた「人情と暴走」
- 元暴力団組長が出資し、袴田事件の冤罪を訴えた「実録映画」の「知られざる秘話」…袴田巖さんを演じた「主演俳優」のハマりっぷり
- 滋賀の42歳独身女性銀行員が「10歳下のヒモ男」に貢ぐために「9億円横領」…女の「出世」が裏目に出た「衝撃の末路」…事件をもとにした作品で「史上最悪のヒモ男」を演じた「意外な俳優たち」
- 「あのシーンに興奮するなんて…」犯人は本当に『必殺仕置人』に刺激されて21歳女性を殺害したのか…川崎で起こった悲劇の「その後」