「AI-RAN」でソフトバンクのネットワークは何が変わる? ユーザーのメリットとビジネス上のインパクトを解説
AIで干渉調整も容易に ユーザーにとってのメリットは通信品質の向上
ソフトバンクの開発したAIサービスや、余剰リソースを活用する法人や、そこから収益を得るソフトバンク自身だけにメリットがあるかといえば、必ずしもそうではない。AI-RANのAIは、無線制御の部分にも生きてくるからだ。ソフトバンクの先端技術研究所で所長を務める湧川隆次氏は、「2年後はAIのために入れたサーバで無線アクセスネットワークを動かす逆転のタイミングがどこかで来る」と語っていたが、裏を返せば、現状ではネットワークの制御が主であるということになる。 この無線制御にAIを活用し、より通信品質を上げていくのもAI-RANのコンセプトの1つだ。湧川氏によりと、「AI-RAN Allianceでかなり議論しているところだが、今回のAITRASにもそういったエッセンスが入っている」という。ソフトウェアでアップデートが可能なため、実証ができた技術は「どんどん取り込んでいく形になる」(同)という。 実証実験で示されたのは、20台のRUを1つのサーバで協調動作させつつ、十分な通信品質を保つというデモだ。ソフトバンクは、4G時代から「都市部にはC-RANを導入し、高密度エリアならではの干渉制御をしている」(同)という。C-RANとは、「Centralized Radio Access Network」の略で、基地局をRU部分とBBU(Base Band Unit)と呼ばれる制御部部分に分ける技術。複数のRUをまとめて制御することで、「何百セルという無線機を一括して連携させることができ、干渉調整もしやすく、ネットワーク品質を上げられる」(同)メリットがある。 一方で、手動でパラメーターを入力し、干渉調整をするのは難易度が高い“職人技”が要求される。ソフトバンクの先端技術研究所 先端無線統括部 無線システム部 部長 野崎潔氏によると、特に「高密度エリアでは干渉制御が難しい」という。例えば、「既にある基地局のカバレッジを変えないといけない(狭める)というときには、アンテナのチルトを下げたり、出力を落としたりするが、そうするとドミノ倒しでいろいろなところに影響が出てしまう」(同)。 キャリアとしては、「面でものを考えなければいけないため、干渉している場所でいかに通信速度を上げていくかが非常に大事になる」(同)という。AITRASでは、ここにもAIを活用しており、複数のRUを設置した際に、自動で干渉を調整する。「これまでは自分たちの目でシミュレーションをして選択していたが、AIが見たときに、違うところを協調させた方が性能が上がることも分かっている」という。 ユーザーにとってのメリットは、通信品質が上がるところにありそうだ。湧川氏も、「干渉調整がしやすく、ネットワーク品質を上げられる」と語る。都市部では、特にこのチューニングが難しいため、AIで簡単に品質を向上できるようになれば、ネットワーク品質改善のサイクルも高速化しやすい。もともと、高トラフィックエリアに対して密に基地局を展開しており、快適さに定評のあるソフトバンクだが、その強みをさらに発揮しやすくなるといえそうだ。 実証実験では、4.8~4.9GHz帯の周波数を活用。帯域幅は100MHz幅となり、最大4レイヤーのシングルユーザーMIMOを利用した。これらRUは全て先に挙げたNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipのサーバに接続されており、ここで一括制御されている。この環境で、100台の端末を同時に接続し、動画視聴に成功した。 4.9GHz帯は、現在ソフトバンクが5Gの周波数として割り当てを申請している周波数帯。ドコモ、KDDI、楽天モバイルは手を挙げていないため、認定が確実視されている。その意味では、ソフトバンクの商用環境に近いといえる。湧川氏も、「基本機能なってしまうが、ここを切り出して商用化していく」と語る。