「AI-RAN」でソフトバンクのネットワークは何が変わる? ユーザーのメリットとビジネス上のインパクトを解説
2025年度はPrivate 5Gとして導入、一般展開は2027年度からで海外展開も視野に
ソフトバンクの先端技術研究所は、基礎技術を研究する組織というより、新しい技術の社会実装に重きが置かれている。言い換えるなら、最新技術の商用化を目指すための研究や開発を行う部隊といえる。AITRASも同様で、先に挙げたように、商用環境に近い周波数帯が用いられており、目標も明確だ。湧川氏によると、2025年度には一部法人顧客の専用網となるプライベート5Gに展開するミニマクロ局として、サービスを開始するという。 一般コンシューマーがその恩恵にあずかれるのはもう少し先になり、ソフトバンクの商用網への採用は2027年度になる。その間、機能にも磨きをかけていく方針だ。先に挙げたように、現状ではRUが4レイヤーのシングルユーザーMIMOだが、より多くの端末との通信をさばける64T64RのMassive MIMOや、MU-MIMOへの対応を2025年度中に完了させると同時に、AIの性能向上やオーケスト―ターのアップデートも行っていくという。 先に引用したように、湧川氏が「基本機能になってしまうが、ここを切り出して商用化する」と語っていたのは、Private 5Gで先行導入することを意味している。機能面では、「次のチャレンジになるのが64T64RのMassive MIMOとMU-MIMO」(同)だ。いずれもシングルユーザーMIMOと比べ、アンテナの数が一気に増えるため、計算量が膨大になるといわれている。 この点に関しては、プロセッサやその上のプラットフォームを提供する「NVIDIAとガッツリ組んで、サポートするようにしていきたい」(同)という。今は、「Grace Hopperを使っているが、NVIDIAは次のGrace Blackwellもアナウンスしている。その進化を合わせていけば、必ずどこかで(必要なパフォーマンスを)抜ける」(同)。一方で、処理能力さえ満たせれば、こうした機能もソフトウェアアップデートで適用可能になるのが仮想化の強みだ。NVIDIAのヴァシシュタ氏も「アップデートでの対応になる」と話す。 さらに、ソフトバンクは商用環境で培った技術を、海外の他キャリアに外販していく計画もあるという。宮川氏は、「(無線機)メーカーになりたいと思っているわけではないが」と前置きしつつ、「AI-RANを日本で実装でき、有効であると証明できたら、これこそを輸出モデルにしていきたい。無線全体のプロダクトの中の1つとして、サービスのいろいろなレイヤーも含めて輸出したい」と語る。 実際、湧川氏が挙げたロードマップにも、ソフトバンクのネットワークで商用化したのとほぼ同時期に、海外キャリアへの販売が始まることもうたわれていた。こうしたビジネスモデルは、楽天モバイルで導入したネットワークを海外に販売している楽天シンフォニーや、自社でOpen RANのネットワークを組み、それを海外に展開しているドコモとNECのOREX SAIに近い。 これが実現すれば、ソフトバンクにとって、AIサービスやAIのためのリソース提供に次ぐ、第3の収益源になる可能性もある。もっとも、楽天シンフォニーやOREX SAIは、既に海外でビジネスを開始しており、まずはここにキャッチアップしていく必要もある。販路の開拓や営業体制の確立など、やるべきことは多い。モノやサービスさえあれば売れるわけではないため、外販を開始するという2027年に向け、ソフトバンクが販売のための仕組みをどう作っていくのかは今後の課題といえそうだ。
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