投票に行かなくなったのは中高年。これからの選挙のあり方を考える
若者が「一票のリアリティ」を持てないのはなぜ?
── 中高年の投票率が下がっているということは、相対的に若者の一票の価値は上がっているともいえるのではないかと思います。そもそもなぜ若者は選挙に行かないのでしょうか? 政治に関心を持つきっかけがないですよね。たとえばアメリカやイギリスでは有権者登録制度があって、選挙権を得られる年齢になっても自分で手続きをしないと選挙権が得られません。つまり、自分で「政治に参加する」という意思表示をする必要がある。 日本の場合は18歳になると自動的に投票の通知が届きます。選挙権は権利なので、本来は自分で求めて得るものだと思うのですが、与えられるものになってしまっている。 さらに、若い世代ほど「一票のリアリティ」を持てない人が多い。つまり、自分が一票を入れることでどれだけ社会が変わるのか、その手応えを信じられないということです。 ── なぜ若い人ほどそのように考えてしまうのでしょうか? 政治が自分たちに向いてくれた経験がない、もっと言うと、政治家に大事にされたことがないからだと思います。 政策の効果を実感することによって10年、20年先がある程度見通せるならば、結婚したり子どもを持ったり、人生計画を立てられるわけですよね。でも今は政治家が「給料を上げます!」と言っても、そのぶん社会保障などの負担が増えていたりして、言葉通りに信じることはできない。日常的に政策の効果を感じられる機会が減っているのだと思います。 ただ、これは若い世代の投票率が低いという結果によるものでもあります。政治家としては当選しなくては何も実現できないので、投票してくれる層に目を向けなければいけないですから。
ネット投票が解禁されれば、若者は投票するのか
── 投票率を上げるために議論され続けている「ネット投票」が実施されれば、若者の投票率も上がるのではないかと思うのですが、松本先生はどのように考えますか? スマホがライフラインの世代ですからね。投票は決められた期間に決められた場所へ出向いて行わないといけないので負荷が高い。 たとえば、2024年4月に総選挙があった韓国では、全国どこの投票所からでも期日前投票ができます。それができる理由は、国民がデジタルナンバーで管理されているから。「ネット投票できたらいいね」ってみんな簡単に言うけれど、日本のマイナンバーカードの普及状況を見ると相当難しいことだと思いますね。 ── マイナンバーカードの保有率は2024年4月末時点で73.7%。交付開始から8年、ポイント還元などさまざまな施策も行ってきての数字と思うと、100%保有への壁の高さも感じます。 さて、考えたいのは、そうやってネット投票が実現したとして、本当に若者たちは投票するか?ということです。政治に関心がある層が投票しやすくなる面はありますが、政治にまったく関心がない人が「スマホで投票できるなら参加しよう」となるのか。 それよりも、「選挙とは別のところで政治に触れるような制度づくりやサポートをして、政治参加の意識を持ってから投票する」という順番にしていく必要があるのではないかと、私は考えています。