最も多い化石は何?生きた証し「生痕化石」が導くことー足跡化石の謎(上)
私たちが太古に存在した生物の確かな証拠として今もみることができる化石。その存在がなければ、かつてこの地上を大型恐竜が闊歩していた事実は架空の出来事としか思えなかったぐらい、現在の生物は様変わりしています。 こうした第一級の資料である化石にもいろいろな種類があることをご存知でしょうか。 古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、化石研究についてまとめます。 ----------
化石のタイプにおける「生痕化石」
「人類のはじまりやいかに」 化石研究における命題の一つ。およそこの問いかけに興味のない方は、いないのでないだろうか。我々はどこからやってきたのか? いつ、どのように人類の直接の先祖は現れたのか? 進化学者や古生物(化石)研究者は、当然のように「最古の人類」の証拠を捜し求めている。サイエンス上、この問いに答えるために、具体的にどのようなタイプの証拠やデータを、我々は用いることができるのだろうか? まず当然「化石」が挙げられるだろう。(この連載を通して紹介してきた様々な例をあげるまでもなく。)他には、例えばmDNAなど「遺伝子上のデータ」を、一部の生物学者は用いる。太古の人類が残したとされる「遺跡や遺物(石器など)」に、その証拠を求める専門化もいる。 古生物学者にとってかかせない化石。しかし、ただ化石といっても、実に様々なタイプの化石があることを、ここで指摘しておきたい。例えば、見栄えのする「ミイラ化した恐竜」 のような全身骨格もある。体がまるごと「琥珀の中に閉じ込められている 」化石。「凍りづけになったゾウの化石 」も知られている。アゴや歯など体の一部分だけを供えた化石は、一般に多数発見される。しかし、ある特定のものは非常に興味深い進化上のストーリーを語りかけてくれることがある(こちら参照 )。 こうした体の一部および全体を備えたものは、一般に(古生物の教科書などにおいて)「ボディー化石(Body fossils)」と呼ばれる。骨や歯だけでなく、皮膚や体毛、太古のDNA等、体の一部が直接保存され化石として残ったものが、このボディー化石に便宜上分類される。博物館や恐竜展などでよく目にする化石は、ほとんどがこのタイプだろう。 さて、もう一つ別のタイプの化石があることをご存知だろうか? このグループを化石研究者は「生痕化石(せいこんかせき)」と呼ぶ。英語では「Trace fossils」とつづる。太古の生物によって残された生の痕跡(こんせき)を示す化石群をさす。例えばたくさんの小さな海生動物(貝、ゴカイ、エビ、蟹など)は、海底にもぐって生活する。こうした小動物によって掘られた「巣穴(burrow)」の跡は、化石として実によく見つかる。アリやモグラ、蛇、一部の恐竜などの陸生動物の巣穴の化石も知られている。 例えば下の写真を見ていただきたい。私がアラバマ州におけるフィールド調査を行っている際に見つけた巣穴の化石だ。岩石は白亜紀末の、恐竜やモササウルスなどの海生爬虫類が絶滅する、すぐ間近の石灰岩の地層に残っている。現場は、約6600年前当時、海岸線近くの海環境だったと考えられる(たくさんの貝殻や魚の骨が見つかった)。 薄灰色の岩石の中に、親指ほどの太さの巣穴が多数、複雑に入り乱れているのが分かるだろうか? 特に海底の地表に沿って規則正しく掘られているわけではない。大きさや角度もさまざまだ。そしてこの地層の約50cmのレベル(厚さ)から、そこら中にみられた。こうした条件を考えると、貝などによって掘られたと考えられる。(注:他の海生動物によって作られた可能性もある。)