最も多い化石は何?生きた証し「生痕化石」が導くことー足跡化石の謎(上)
足跡が語りかけてくれるストーリー
足跡の化石も生痕化石の一つとして、非常に重要なものだ。足跡は文字通り、脚をもつ多種多様な陸生動物群によって残されたものだ。化石記録において、足跡は「実にたくさん発見される」という事実をご存知だろうか? 歯や骨などのボディー化石より、足跡の化石がより見つかる地層は、世界各地にたくさんある。 この事実は、単純な計算から理解できる。例えば恐竜などの陸生脊椎動物の姿を一つイメージしていただきたい(種類は何でもいい)。どの個体も、頭一つ、四つの手足、背骨も(種によって一定の)決まった数がそろっている。歯は種によってたくさん持っているものもいる(「持っていないもの」 もいた)。この個体が死んで後、化石として骨格が保存される可能性があるだろう。頭や手足のような骨格の部位における骨の数は、化石として見つかる確率に基本的に比例している。頭骨が化石として見つかる可能性は、歯や背骨より極端に低いのは、火を見るよりも明らかだ。宝くじの配当金と当たる確率の関係にも似ている。一億円当たる人はほんの一握りの運のいい人だけだ。 一方、一匹の恐竜が死ぬまでに、はたして何個の足跡をその生涯に残せるか、想像してみてほしい。何千、何万という数にのぼることもあるだろう。 例えば、ジュラ紀後期の竜脚類を、私は個人的に長い間研究してきた。その際、足跡はあちこちの現場(地層)でたくさん見つかることに驚いたものだ。 下にある写真は、アメリカのロッキー山脈沿いにあるワイオミング州の、あるジュラ紀後期の地層(恐竜がたくさん見つかるモリソン塁層)において発見したものだ。私のハンマーの先にある砂岩石の表面に、丸い斑点のような印が縦に一列に並んでいる。四脚恐竜 ── おそらくカマラサウルスやアパトサウルスのような竜脚竜の幼体 ── のものと思われるジュラ紀の足跡化石だ。
この写真を撮った地域からは、大小様々、何百という足跡化石が見つかる。フィールドでの体験をもとに、私は場所と地層によって、足跡の化石は「非常にたくさんみつかるのだ」という事実に(改めて)気づかされた。 閑話休題。こうした事実は、自分でフィールドに足を運び、汗をながして歩きまわらなければ気づかないだろう。そして見つけた足跡化石を、全て博物館などに持ち運ぶことは物理的に不可能だ。(岩石のずっしりとした重量とその量を目の前にすると、そんな気さえ起きない。) さて、足跡化石から具体的にどのようなことを、我々は学べるのだろうか? そのサイエンス的な意義とは何だろうか? まず足跡から太古の生物の行動パターンを、直接知ることができる。例えば四脚歩行から二足歩行への進化。特に人類の進化において、この違いは重要とされるが、骨格のデータだけをもとにすると、なかなかはっきりした行動上の変化が、分かりにくい。その逆のパター(二足歩行への移行)も、特に一部の爬虫類や哺乳類の進化上、起こった。動物がその名のとおり、進化上いつ自由に動きはじめたのか? その証拠は、生痕化石のデータにたよるしかないだろう(こちらの記事参照)。 足跡化石から歩行速度の推測なども行うことができる。例えば、白亜紀後期の肉食恐竜ティラノサウルスは、ハリウッドの映画のように、実際ジープなどを追いかける速さで、走ることが出来たのだろうか? 今となっては、実際に走っているT. rexの個体を、直接計測することなど出来ない。ウサイン・ボルトより速く100mを走りきれたかもしれない(無理だったかもしれない)。しかし、足跡のような生痕化石が、このような問いかけに対するデータを与えてくれる可能性がある。 肉食の動物が、単独で狩りを行っていたのか? それとも群れ(パック)で行動を行っていたのだろうか? 特に化石種において、こうした証拠である足跡の化石から得られるデータは、非常に重要だろう。