最も多い化石は何?生きた証し「生痕化石」が導くことー足跡化石の謎(上)
「生痕化石」の重要性
巣穴と似たようなもので「巣の化石」も挙げられる。主に陸生動物によって残されたものだ。例えば、一部の恐竜は卵の化石とともに、巣が丸ごと保存された状態で見つかることがある。卵の数や、卵の並び方、そして巣の大きさや作り方は、雛(ひな)がかえった時の状態など知る手がかりを与えてくれるので貴重だ。(脊椎動物の進化上、母親の個体はいつ頃、具体的にどのような「契機」において、赤ん坊の世話をはじめたのだろうか?) 海底や川底をはったり泳いで残された痕も、化石としてたくさん見つかることがある。種や生物グループによって、こうした痕の形態は、実に様々だ。魚の尻尾によって残された痕から、タニシのような巻貝の這った通り道まで、多岐にわたる。水の底は、生物の生きた痕が、実に生々しくくっきりと残されていることが多い。時に何千万年、何億年という時間を経ても残される。 生痕化石の他の例として、「食べ痕」も代表的なものだ。肉食恐竜にかじられた、草食恐竜の骨の一部などは、比較的よく見つかる。貝殻にあいたも多数の穴も、他の水生動物によって襲われた(食べられた)痕の可能性がある。木の幹に多数の虫食いの痕が残っているの化石もある。こうした多数の痕を見せつけれれては、生物の進化史とは「すなわち食べる歴史」とでも言いたくなる。昼飯時の人気の定食屋のような活気さが、生痕化石から私には伝わってくる。 化石標本を見る時、こうした「傷跡」に注意を払ってみると、意外な事実に気づくかもしれない。 糞の化石 ── いわゆる「糞石(coprolite)」も、(環境によっては)たくさん見つかる。糞石は当時の食生活を調べる際、貴重な情報をもたらしてくれる。ちなみに化石(=オリジナルの成分が周囲の鉱物・岩石のものと取って代わられたもの)なので、まったく匂いはしない(どうかご安心を)。 一般にこうした生痕化石は、太古の具体的な環境を知る直接の手がかりを与えてくれるので貴重だ。例えば、先に紹介したアラバマ州の白亜紀末の地層から見つかった巣穴の化石は、遠浅で温暖な海だった可能性を示している。実にたくさん見つかる、こうした巣穴や他の化石から推測するに、多くの海生動物にとって、かなり住み易い環境だったはずだ。 生痕化石から、太古の生物の行動の変化(進化)に関するデータが手に入る可能性もある。例えば、一連の巣穴の化石記録によると、古生代初期の海生動物は、基本的にあまり砂の中、深く「潜ることができなかった」と考えられている。砂の中に深くもぐる能力、そしてより複雑な巣穴の構造を海生動物が手に入れたのは、古生代中頃から後半に入ってからと、一般に考えられている。(その変遷期に、何か環境上の大きな変化が何か起きたのだろうか?)