国会審議を充実させる方法 野党の質問時間は少なくていいの?
議論になったのは「質疑」の配分時間
また、わが国の国会では、質問と質疑とが区別されており、特定の審議案件(法案や予算など)について疑義をただすのは、「質問」ではなく「質疑」と呼ばれています。この質疑は、したがって、特定の審議案件について討論したり採決したりするために、疑問のある点についてその趣旨をたずねる、というものです(これに対して質問は、それ自体が議題であり、質問者の設定する問題を相手に尋ねるというものです)。昨年問題になったのはこの「質疑」時間の配分で、本会議の場合、先例集には「理事の協議により、全体の質疑時間を定め、これを各会派の所属議員数の比率に基づいて割り当てるのが例」とあります。委員会についても同様で、ただし、会派所属議員数ではなく、当該委員会における会派所属委員数の比率に基づいて割り当てることもある、とされている点が異なる程度です。 したがって、質疑時間の配分については、憲法や国会法、議院規則に明確な規定はなく、会派所属議員数、または会派所属委員数に基づいて配分する、という先例があるのみで、その数に基づいてどのように配分するかについての明確なルールはありません。少なくとも、議会少数派ないし野党に多くの時間を配分するという明確なルールはなく、ただ、国政一般について議論が行われる予算委員会については,その重要性に鑑み、野党の側に多めの時間配分を行うことが慣例化しました。確かに2009年の民主党政権誕生後、特に「与党2:野党8」の配分を行う例が続きましたが、それ以前から、予算委員会において野党に長めの質疑時間を配分することは、いわば慣例となっていたわけです。
与党が野党になった場合も納得できるルールに
これは議院内閣制において、議会少数派ないし野党が与党の政策を批判し、統制することの重要性に着目したものですが、次の3点で注目に値します。 第1に、多数派と少数派の相互互換性です。先に、議会の決定が公平かつ適正な手続きで行われることの重要性を指摘しましたが、手続きの公平性の重要なポイントは、時々の多数派に有利なルール形成が行われない、という点にあります。つまり、政権交代によって現在の多数派が少数派になった場合でも受け入れられるルールであるかどうかが重要で、少数派権の一環である質疑時間の傾斜配分は、誰が多数派を占めた場合でも、議会少数派の批判・統制機能が重要である、という考え方に依拠したものであると言えるでしょう。 第2に、手続きの公平性を確保するために、「手続きの定め方に関する手続き」に着目することが重要です。議会の審議手続きが公平かつ適正でないといけないとしても、何が公平で何が適正な手続きであるかについては、意見が一致しないのが通例です。単なる多数決による決定では、時々の議会多数派に有利な手続きが選択されるおそれがあり、そのような手続きで行われる議会活動の正統性自体が疑われることになりかねません。 この点で想起されるのが、オーストリア国民議会の「議事規則法律」です。比較法的に見た場合、議会内のルールは各議院が自主的に定めるのが通例ですが(議院自律権)、わが国は議会黎明期の明治時代、オーストリアをモデルに、各議院内部の事柄を法律形式で定めるという行き方を採りました(いわゆる「議院法伝統」(大石眞))。現在の国会法はこの議院法の伝統を受け継ぐものですが、そのモデルとなったオーストリア国民議会の議事規則法自身が、議会少数派を保護するために、その変更には3分の2の多数が必要であるとしています。ここでも、その基礎にあるのは多数派と少数派の互換性という眼差しです。