国会審議を充実させる方法 野党の質問時間は少なくていいの?
「議院内閣制」諸国で野党権限の整備進む
特に議院内閣制では、内閣と議会多数派(与党)とが同一の政治勢力から構成されるのが通例ですから、内閣の提出する法案・予算・国会承認案件などは、原則として議会をパスします。したがって、ここでは、議会少数派による内閣・与党のコントロールが、いっそう重要になります。 そのため諸外国、特に議院内閣制を採用する諸国では、さまざまな形で議会少数派の権限(少数派権)が整備されています。ただし、効果的な統制を行うためには、それに必要となる情報をもたなくてはなりません。しかし、統制の相手側、つまり政府・与党が喜んで情報を提供してくれることが想定しがたい以上、内閣・行政各部・議会多数派から情報を強制的に獲得できることが重要になります。こうして、議会少数派権の整備は、具体的には、議会少数派の情報要求権の整備、という形で行われることになります。
野党に「情報要求権」を広く認めるドイツ
例えばドイツでは、幅広い問題を長期的に検討するための調査会(連邦議会議事規則56条)、専門家・利益団体代表者などの意見を聴取するための「公聴会」(同70条)、「議会調査権」(基本法44条1項)が整備され、いずれも議員の4分の1の申し立てで設置することができます。特に議会調査権は、刑事訴訟法の規定が準用されるなど法的な強制性を備えており、議会少数派の重要な権限となっています。 わが国ではこのような少数派権としての情報要求権はほとんど整備されておらず、わずかに、1997年に「予備的調査制度」が設けられたにとどまります。この制度は、(1)委員会の議決に基づく場合(衆議院規則56条の2)のほか、(2)40人以上の議員が要請する場合(同56条の3)に、衆議院の委員会が行う審査・調査のいわば下調査として、衆議院調査局または衆議院法制局に予備的調査を行わせるもので、(2)は少数派権としての意味を持ちますが、肝心の強制力を備えていません。また、その報告書も公開が制度化されておらず、委員会に報告書が提出された後に、政党などが自主的に公開することがあるにとどまります。しかも、2010(平成22)年以降、予備的調査の発令自体がなくなっています。 議会少数派の情報要求権の観点から重要なもう一つの手段が、「質問制度」です。もっとも、質問権は、少数派権というよりは、国民代表としての各議員の地位から導かれる憲法上の権能で、「文書質問」・「口頭質問」、「緊急質問」・「一般質問」などの区別がありますが、わが国では緊急の場合に限って口頭質問が認められ、通常は個々の議員による文書質問によるのが原則とされています。 この文書質問に関しては、経過・質問主意書・答弁書の全てがインターネット公開されますので、政治的に注目されることは少ないものの、迅速かつ効果的な統制手法となるポテンシャルを持っています。しかし、内閣からの答弁書の中には、論点をずらしたり、木で鼻を括る類の答弁内容も散見されるなど、質・量ともに改善の余地が多く残されているように思われます。 この点で、2009年ドイツ連邦憲法裁判所の2つの判決が注目されます。それによれば、内閣は、個々の議員または会派の提出した質問に対して、十分にかつ根拠を示して返答する憲法上の義務を負うとされます。特に2009年7月1日の判決では、連邦政府が憲法上認められないような理由で情報の提供を拒んだこと、また、連邦諜報機関による議員情報の収集・蓄積・供与についての情報提供の要求に対して不十分な回答を行ったことが、議員の権利(基本法38条1項2文)および連邦議会の権限(基本法20条2項2文)を侵害するとされました。連邦憲法裁判所は、内閣の答弁義務に対する例外・限界をほとんど認めておらず、連邦政府が答弁を拒む場合には、その背後に憲法上の利害が控えていることを納得のゆく形で提示する義務があるとしており、わが国でも参考になるものと思われます。