カナダ社のセブン買収提案で注目の指針 「生みの親」が語る論点
「今回の買収提案者は、セブン&アイ・ホールディングス(HD)が『行動指針』に従った行動を取ると考えたのだろう」。東京大学の神田秀樹・名誉教授はこのような見方を示した。 【関連画像】アリマンタシォン・クシュタールは給油所を併設したコンビニ「サークルK」や「クシュタール」を展開する(写真=jetcityimage/stock.adobe.com) 神田氏の言う行動指針というのは、経済産業省が2023年8月に示した「企業買収における行動指針」のことだ。 経済社会にとって望ましい買収を促すため、神田氏を座長とする研究会での議論を踏まえて策定された。これまでも、経産省は19年の「公正なM&Aの在り方に関する指針」などを提示しているものの、神田氏は「企業から『同意なき買収提案を受けた際、どのように行動したらいいか分からない』という声があり、今回の行動指針を定めようとなった」と話す。 今回、策定から約1年もたってこの行動指針が改めて注目を浴びたきっかけがカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタール(ACT)によるセブン&アイHDの買収提案だ。 ACTは31の国・地域に「サークルK」や「クシュタール」というブランド名で計1万6700店舗以上を展開する。多くが給油所を併設しており、米国の店舗数ではセブンイレブンに次ぐ2位。セブン&アイHDの全株取得を検討しているとされており、買収金額はプレミアムによっては5兆円以上になる可能性もある。 セブン&アイHDは8月19日、一部報道を受けて「内密に、法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていることは事実」と発表。ACTも「拘束力のない友好的な提案書を提出した。両社の顧客、従業員、フランチャイジー、株主にとって利益となるような、双方が合意できる取引を成立させることに注力する」と表明した。 セブン&アイHDは独立社外取締役のみの特別委員会を立ち上げた。ACTの提案のほか、現在進めている自社の経営計画を含めた他の選択肢も検討。どれが企業価値向上につながるかを判断するという。 ここで行動指針に話を戻そう。 指針では買収提案を受けた側、行った側の望ましい行動について書かれている。①企業価値・株主共同の利益の原則②株主意思の原則③透明性の原則―という3つの原則を提示し、望ましい買収かどうかは「企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させるかを基準に判断されるべきである」としている。 買収提案を受けた際には、速やかに取締役会に付議または報告することを原則としており、「真摯な買収提案」に対しては「真摯な検討」をすることを求めている。また取締役会の過半数が社外取締役ではない場合などには、独立性や取引の効率性を確保するために特別委員会を設置することも推奨している。