滋賀医大生・性暴力事件、検察がおこなった「上告」とは? 最高裁で覆るのは「年間数件」…三審制を解説
●上告の流れ
実際に上告することを決めたら、どのような流れとなるのでしょうか。 まず、控訴審の判決の送達を受けた日から2週間以内に、上告申立書を裁判所に提出します。 この際の申立書には、具体的な内容はまったく書きません。「●年●月●日に、●●裁判所が宣告した判決は、全部不服であるから、上告を申し立てる」というような、数行の記載だけの簡単なものです。 今回も、現時点ではこの上告の申し立てが行われたばかりという段階ですから、上告審での具体的な主張は存在しておらず、誰も知ることができません。 上告の申し立てがあると、そこから裁判所が「上告趣意書」の提出期限(だいたい1ヶ月半~2カ月くらい先)を決めて、当事者に連絡します。 当事者は、「上告趣意書」を作成して、提出期限までに提出します。この「上告趣意書」には、具体的な不服の内容を書きます。上に挙げた刑事訴訟法の条文にある「法令違反」「判例違反」「裁判所が職権を発動すべき事由(+原判決を破棄しなければ著しく正義に反する)」があることを、できるだけ説得的に論じていくことになります。
●上告審で判決が覆る場合
上告審で判決が覆る場合には、大きく「破棄自判」と「破棄差戻し」とがあります。 破棄自判とは、控訴審の判決を破棄して、最高裁判所が自ら判決を下す場合です。 破棄差戻しとは、控訴審の判決は破棄するが、最高裁判所自らが判断するには審理が足りない場合に、審理を高等裁判所や地方裁判所にやり直しさせる場合です。 なお時折、「最高裁で弁論決定」という報道を見ることがあるかもしれません。弁論というのは、裁判所で意見を述べたりすることです。 先に書いたように、最高裁では基本的に書面での審理しかされないため、最高裁で弁論が開かれること自体、非常に稀です。そのため、判決がひっくり返る(「破棄自判」や「破棄差戻し」になる)展開を予想してかニュースになるようです。 たしかに、最高裁判所で、高等裁判所の結論を変える場合には、必ず弁論を開かなければなりません。 しかし、結論を変えない場合であっても、重要な問題について、最高裁判所でも弁論を戦わせるべきと判断された場合には、弁論を開くことがあります。 ですから、弁論が開かれたからといって、必ず判決がひっくり返るわけではありません。
●今回の上告についてのまとめ
以上みてきたように、上告審で憲法違反や判例違反が認められることはほぼありません。 上告の際に憲法違反や判例違反の主張も一応しておくのだとは思いますが、実質的には、職権破棄を求める主張が今後の中心になるのだと思われます。 ただし、職権破棄がなされることも非常に少ないことも、先に書いたとおりです。 現時点では、具体的にどのような理由で上告されるのかは誰にも分かりませんが、検察官がどのような主張をしていくのか、注目していきたいと思います。 (弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)