滋賀医大生・性暴力事件、検察がおこなった「上告」とは? 最高裁で覆るのは「年間数件」…三審制を解説
●上告審で審理できること
上告審で憲法違反や判例違反が認められることはほとんどありません。年に1件もないことも多いです。 ほとんどの事件では、「上告理由が刑事訴訟法405条に規定する事由にあたらないことが明らかである」として、公判期日も開かれずに、決定で上告が棄却されてしまいます。 そうすると、上告審にはほとんど意味がないのではないか、とも思えるのですが、上告審にはもう一つ、職権破棄(刑事訴訟法411条)という制度があります。 職権破棄とは、憲法違反や判例違反がなくても、最高裁判所が職権で原判決(=高裁の判決)を破棄できる場合がある、とするものです。 第四百十一条 上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。 一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。 二 刑の量定が甚しく不当であること。 三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。 四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。 五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。 注意すべきなのは、あくまで「職権」であって、411条にあたる場合に、原判決を破棄することが「できる」だけだということです。最高裁判所が職権を発動しないケースはいくらでもあります。 また、411条1号から5号のどれかにあたる場合、というだけでなく、「原判決を破棄しなければ著しく正義に反する」ことも認められなければ、職権破棄はできません。職権破棄のハードルも非常に高いものです。 なお、職権破棄を含めても、上告審で控訴審判決が覆される(破棄自判や、破棄差戻・移送)のは、年間で2000件近い上告の中の、わずか数件、というのが実情です。 「結局上告審にはほとんど意味がない!」という意見もあると思います。