火星でメタンを測るには日の出の直前が最適? メタン濃度の変化をモデル計算で予測
火星の大気にはわずかながら「メタン」が含まれています。メタンは自然現象だけでなく生命活動によっても放出されるため、その起源が注目されています。しかし、火星のメタンには多くの謎があります。その1つが、激しい濃度変化を示唆する測定結果です。 今日の宇宙画像 ロスアラモス国立研究所のJohn P. Ortiz氏などの研究チームは、火星のメタン濃度は大気構造の変化によって1日以内の短時間でも変動すると考え、計算を行いました。比較的簡易なモデリングではあるものの、その結果はこれまでの測定結果を裏付けるものでした。もしもこの研究内容が正しい場合、日の出の直前にメタン濃度の激しい上昇が予測されるため、Ortiz氏らはこの時間帯に計測が行われることを期待しています。
■火星の「メタン」には謎が多い
単純な炭化水素である「メタン」は、火山活動や岩石の成分変化などの自然現象によって放出されています。一方で、メタンは微生物が代謝を行うことでも放出されることが知られています。地球においては、自然現象によって発生するメタンよりも生物活動に由来するメタンの方が多く放出されています。 火星の大気にも、体積にして約24億分の1という極めてわずかな割合ですが、メタンが含まれています。火山活動に関連して放出される他の分子が見つからないことを合わせると、メタンの存在は火星に独自の生命が存在していて、現在でも活動しているかもしれないという予備的な証拠となります。ただし、現在火星にある、または将来予定されている探査機の計測装置では同位体比の測定のようなより確度の高い証拠は評価できず、今のところ生命の存在を決定することはできません。 このため当面は、現時点で利用可能なデータからメタンの発生源や起源を推定する研究が行われています。どのような原因で生じているにしても、メタンは地下に発生源があると考えられていますが、それ以上の詳細はよくわかっておらず、多くの謎を抱えています。 謎の1つは、火星大気のメタン濃度が激しく変動することです。火星大気中でのメタンの寿命は約330年であると考えられているため、例え発生源が局所的だったとしても、火星全体に拡散することができます。しかし、実際のメタンの濃度は火星の北半球が夏の終わりを迎える頃に最大になることが分かっています。これはNASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査車「キュリオシティ(マーズ・サイエンス・ラボラトリー)」によって継続的に測定されたデータに基づくものですが、その理由は不明です。 また、季節と連動した長期的な変化以外にも1日以内の短時間で変化する可能性もあることが分かっています。先述の通りキュリオシティは火星大気中のメタンを見つけたものの、ESA(欧州宇宙機関)とロスコスモスの火星探査機「TGO(トレース・ガス・オービター)」は、高高度大気中でのメタンの検出に失敗しています。 この違いは、TGOが昼間に計測を行うのに対し、キュリオシティは主に夜間に計測を行うためであると推定されています。実際、キュリオシティも昼間に測定を行った際にはメタンの検出に失敗しています。こうした大気中のメタン濃度の変化は、安定なメタン分子を効率的に破壊する未知のプロセスか、もしくはメタンを吸収する何らかのプロセスがあることを示唆しますが、これまでよくわかっていませんでした。