火星でメタンを測るには日の出の直前が最適? メタン濃度の変化をモデル計算で予測
■火星大気の気圧変化と循環でメタン濃度の変化を説明できる?
Ortiz氏らの研究チームは、メタン濃度の変化の理由は火星大気の気圧変化と循環にあると考え、そのことを検証するためのモデルを作成しました。Ortiz氏らは、メタンは火星の地下、それも地表付近ではなくかなり深いところに発生源があり、亀裂を通じて大気中へ放出されると考えて、継続した研究を行っています。 Ortiz氏らは、火星のメタン濃度の変化を次のように推定しています。気圧が低くなると、地下のメタンは亀裂を通じて上昇してきます。一方、気圧が高くなるとメタンは亀裂を通じて地下へと押し戻されますが、その一部は岩石やレゴリスの微細な隙間に吸着されるため、全てが地下へと戻るわけではありません。この出入りの差により、地下奥深くにあるメタンは地下から大気中へと放出されます。このプロセスは「気圧ポンピング(Barometric Pumping)」と呼ばれます。 また、大気中へと放出されたメタンの挙動も気圧の変化で説明できます。メタンは気圧が低くなると地表から上空へと上昇し、気圧が高くなると上空から地表へと下降します。上空は地表よりも体積が大きいため、上昇したメタンの濃度は相対的に薄くなります。 火星の大気は地球よりも安定しているため、気圧変化の原因は昼間と夜間の気温差であることがほとんどです。昼間は気圧が低くなって上昇気流が発生し、メタンは上空へと拡散し濃度が低下します。これが、TGOやキュリオシティが昼間にメタンの検出に失敗した理由となります。一方、夜間は気圧が高くなって下降気流が発生し、メタンは地表に溜まりやすくなります。これが、キュリオシティが夜間にメタンを検出した理由になります。 一方で、季節による変動は気圧の変化に加えて大気循環の変化や気温の変化も関係していると推定されます。火星の大気循環モデルは完全に理解されているわけではありませんが、夏と冬では地表と接する循環の厚さ (大気境界層) が変化すると予測されます。また、気温が高いと岩石やレゴリスに吸着したメタンが逃げやすくなります。これらを合わせると、夏のメタン濃度は冬と比べて高くなります。北半球の夏に最大濃度を記録するのは、北半球と南半球で発生源に偏りがあるためと考えられます。