【10年ひと昔の新車】3代目フォルクスワーゲン シャランは、素っ気ないけど、プレミアムだった
ミニバンとは思えないほど高い操縦性と高速安定性
そして実際、シャランで移動を始めると、それがドライバーズシートであろうと2列目/3列目のパッセンジャーシートであろうと、やはりその感覚が日本製のミニバンの場合とはかなり異なって感じられる。 あらかじめパンクシール剤を挿入したコンチネンタル社製のタイヤを履く影響もあってか、微低速領域では路面凹凸に対する当たり感が少々きついものの、足回りのテイストはいかにもフォルクスワーゲンらしく、高速走行時の安定感は「さすがはアウトバーン育ち」と納得できるものになるし、ドライバーとしてステアリングを握ってみれば、舵の正確性や路面とのコンタクト感がおおよそミニバンとは思えないほど高いことに感心する。 ちなみに、昨今は「ミニバンなのにスポーティ」と謳う日本のモデルも少なくないが、シャランの走りが日本製スポーティミニバンにもまして自由に操る感覚が感じられるのは、どうやらそのトランスミッションに大きな要因があることに気がついた。 デュアルクラッチ式トランスミッションがもたらすダイレクトでリニアな加速感や、日本の環境下で乗ってもまったく違和感を抱かせないシフトプログラミングは、やはり絶品。微低速域での繋がりの滑らかさという点では、わずかながらも一般的なトルコン式ATに軍配が上がる印象もあるが、新採用のアイドリングストップシステムとの組み合わせで実現させた14.0km/Lという優れた10・15モード燃費の実現をはじめとして、その効率の良さと心地の良い走りのダイナミズムの両立という点では、最右翼の存在であることは間違いない。 実は、そんなシャランにもウイークポイントはあって、たとえば強い傾斜を描くAピラーのせいでフロントシートへの乗降時の頭部の運びがややきついことや、それが影響する視界はやや気になるところだ。また、1.4Lという排気量にツインチャージャーが与えられたダウンサイズエンジンは、スタート時のほんの一瞬、やや重さを感じさせる点なども指摘しておく必要があるように思う。 しかし、フォルクスワーゲンらしい足回りが生み出す安心感や、アクセルワークにダイレクトな反応を示す動力性能は、やはりシャランというモデルの唯一無二な部分と言える。そんな基本テイストは、このモデルを「ゴルフのミニバン」という価値観から選ぼうという人にも、きっと満足してもらえるものだろう。 そのブランドが持つ個性と特徴をそのまま何ひとつ減衰させることなく感じさせるミニバンという点では、シャランはいかにもフォルクスワーゲンの作品らしい存在。アルファードやエルグランドとはまさに「異次元のミニバン」ということだ。(文:河村康彦/写真:村西一海)