【10年ひと昔の新車】3代目フォルクスワーゲン シャランは、素っ気ないけど、プレミアムだった
まず第一に強く実感させられるのは、やはりその見た目のイメージだ。 最新のフォルクスワーゲンらしさを主張するフロントマスクを備えるシャランには、いわゆる「押し出しの強さ」というような、意図的な演出はまるで感じられない。日本製の多くのミニバンを見慣れた目には、そのルックスは素っ気ないほどシンプルに映る。とくに、大きく、高価なモデルになるほどに「見た目の立派さ」を強調する傾向が強い日本製のミニバンに比べると、そのスタイリングの狙いどころが異なる方向を向いているのは明らかと言って良いだろう。 全長と全幅に対して、その全高がルーフレールを含んでも1750mmと、日本製のミニバンと比べると控えめである点も、そうしたデザインのスタンスの違いを表している。すなわち、端的に表現をすれば、あえて「立派」に見せようとしていない。これが、シャランというモデルの見た目の雰囲気を決定づけているといっても過言ではないと思う。 そんなシャランならではのキャラクターの表現は、インテリアに目を移しても同様に感じられる。「質実剛健」と表現すれば耳障りが良く感じられるが、それは日本のミニバンを見慣れた目にしてみれば、一歩間違えると「質素」であり「素っ気ない」というフレーズになりかねない。要するに、あくまでもピープルムーバーという移動空間としての機能が前面に押し出された姿であり、間違っても日本のミニバンたちのように「ゴージャスなリビング空間」などとイメージがラップをするような、贅を尽くした雰囲気ではないということだ。 一方で、「人が乗れても荷物が積めない」では通用しない欧州の作品らしく、3列すべてのシートを使用時でもさらにその後方に相当量(300L)のラゲッジスペースが確保されるのがパッケージングの特徴でもある。
さらに、それぞれに独立型を採用する2列目と3列目のシートすべてをアレンジすると、容量2297Lものラゲッジスペースが出現する。なるほどこの状態でのシャランの室内は、まさに「巨大なパネルバン状態」と言えるものだ。 1.9mを超える全幅が、日本での使い勝手をある程度限定してしまうのは事実だが、それゆえにセカンドシートのセンターポジションも単なる見せかけではなく、しっかりと大人が着座可能であるのは特筆に値する。もちろん、すべてのシートにきちんと3点式シートベルトを用意。この点でも、シャランは「全席平等」というわけだ。 そんなモデルだからこそ「日本のミニバンではなくシャランを支持したい」という人の気持ちはよくわかる。見た目の豪華な作りや装備よりも、セダンなどには到底真似のできないユーティリティ性を望みたいという人にとっても、シャランの多用途性は何よりも魅力的に映るに違いない。 加えて、そんなシャランのシートに腰を降ろしてみると、どのシートでも、日本製のミニバンに乗る場合よりも、どういうわけか「クルマとの一体感」、あるいは「クルマを着る感じ」というものが色濃いことを実感させられる。こうしたモデルに乗るにあたって「一体感」や「着る感じ」もないものだと思われてしまうかもしれないが、いざ乗り込んでみれば、きっと誰もがそうした印象を持つはずだ。 どうやらその大きな要因は、「頭上空間の小ささ」にあるようだ。このモデルの頭上には、実はことさらに大きなゆとりは用意されないのだ。 130km/hあるいは150km/hといったスピードが日常である地域に暮らす人々にとって、高速域での安定性や燃費にも直接的な影響を及ぼす重要な実用性能に関わる部分ということなのかもしれないが、いずれにしても日本製のミニバンに比べるとルーフ高が低いというパッケージングが、シャランならではの雰囲気づくりに一役買っていることは間違いない。