母子の関係に思いを馳せる 今秋公開の感動作3選。 “親の心 子知らず? 老いては子に従え?”果たして――。
◆子への共感ポイント つい甘えからか、親にイヤな態度や鋭い言葉を投げつけて傷つけてしまった覚えのある人、どこか苦い後悔が残っている人(きっと多くの方がそうなのでは⁉)は、もう他人事と思えず共感必至です。自分のことを思ってくれているからこそと分かっていても、母の言動を“ウザい”と感じてしまうのは、きっと、いつの時代も世の常なのでしょう。 例えば中学時代の大が、“なんで俺がいつも(母の方に)譲歩しなきゃならないんだよ!!”とイライラし、手話で会話することさえ拒否する頑なな態度や、そうしてしまう大の衝動的な気持ちも、だから何となく分かってしまうのです。母のことを傷つけたいわけじゃないのに……という自己嫌悪も。耳が聞こえないことを誰からも責められる必要も差別されるいわれもないのに、周囲から蔑まれたり差別されたりする状況自体を、きっと大も怒り、どうしようもなく苛立ってしまう、その蓄積だというのも、すごく伝わってくるのです。 母親ならきっと分かってくれるているハズ、だから怒らないでいてくれるハズ、あるいは、もっと母に自分のことを分かって欲しい、苦労している、頑張っていると労わって欲しい。そんな子どもの身勝手が身に覚えあるからこそ、観ながら痛くて、いたたまれなくて、申し訳なくて…。中学生~20代中盤を演じた吉沢亮さんが、時代ごとのイライラや葛藤、素直になれなさ、そして少しずつ成長していく姿を、繊細にリアルに演じて、その演技も見応え十二分です。 ◆母の愛に胸打たれる! 不機嫌な息子の態度が気にならないハズはないのに、大らかに構える母・明子さんに頭が下がります! 自分なら、きっとイライラ返ししちゃうな…と。そんな明子さんが、購入したての高価な補聴器に興奮し、意味を拾うまではいかなくても、音として「これで大ちゃんの声がきこえる!」と無邪気に大喜びする姿も、痛いほど気持ちが分かる! それなのに大ったら、つれなくて……。 また、ちょっと象徴的でもありますが、“母から定期的に届く宅急便”や、そこに添えられた短い手紙やお小遣いなどに、思わず涙があふれそうになりながら、胸が疼(うず)く人も多いのではないでしょうか。 いくつもの小さなエピソードが脳裏に印象的に刻まれますが、最大の必見シーンは、ズバリ、ラスト! これはもう落涙必至です。しばらく涙が止まりません。 これまでの母とのこと、母の深い愛はもちろんのこと、母に対する自分の心の中の深い深い愛と感謝に全身を貫かれるような大の表情――どこで、なぜ、どんな瞬間、どんな風に――は劇場でのお楽しみに! う~ん、吉沢亮さんに見事ヤラれました!! 聞こえる世界と聞こえない世界、ふたつの世界を生きてきた大の成長と気づきを描いた青春映画の感動と余韻を、是非みなさんもたっぷり味わって下さい。 9月20日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 2024/日本/カラー/105分/配給:ギャガ 監督:呉美保 / 脚本:港岳彦 出演:吉沢亮、忍足亜希子、今井彰人、ユースケ・サンタマリア、烏丸せつこ、でんでん *ぼくが生きてる、ふたつの世界 公式HP あり