母子の関係に思いを馳せる 今秋公開の感動作3選。 “親の心 子知らず? 老いては子に従え?”果たして――。
まさに“母の心、子知らず!”な、『本日公休』
\ Story & Introduction / 台中の下町で40年にわたり、アールイ(ルー・シャオフェン)は理髪店を営んでいます。常連客たちと数か月に一度、定期的にお喋りをしながら髪を切るアールイは、彼らのヘアスタイルの好みはもちろんのこと、家族や人生の状況までよく知っています。アールイの3人の子ども――長女は台北でスタイリストを、次女は街のヘアサロンで美容師を、長男は一獲千金を夢見て定職に就かずにフラフラ。みな実家にあまり顔を出さず、アールイのことを気に掛けているのは、同じ下町で自動車修理店を営む次女の元夫(フー・モンボー)だけ。そんなある日、遠くから通い続けてきた常連客の一人、“先生”が床に伏したと聞いたアールイは、店を「公休」にして訪問散髪に向かおうとするのですが――。
監督は、MV監督としても活躍する台湾の俊英フー・ティエンユー。本作が長編3作目。アールイを演じたのは、24年ぶりに銀幕復帰となった名優ルー・シャオフェン。台北電影奨主演女優賞、大阪アジアン映画祭・薬師信受賞(俳優賞)を受賞しました。
◆子どもたちへの共感ポイント 実家になかなか顔を出さないなんて、きっと多くの方がイタタタタ……となるのでは? しかもたまに顔を出せば、母親を年寄り扱いして“しっかりしてよ”とか“面倒言わないで!”的な態度を取ってしまう3人。そんな彼らの姿を客観的に見ると、“うわ~、なんて身勝手なんだろう”と批判めいた目線になったりするのですが、同時にフと、“自分も同じようなことはなかった?”と我が身を振り返らされたり。 そんな母アールイを常に気に掛けているのが、既に離婚して数年経つ次女の元夫――という状況に、かの小津安二郎の『東京物語』の逆バージョンみたいだな、と重ねずにはいられませんでした。実の子供たちは忙しさを理由に母親を邪険に扱ってしまうけれど、義理の元息子だけが孫の顔を見せるために散髪を理由に定期的に理髪店を訪れては、義母の様子をうかがったり雑事をこなしてあげたり。もちろん元妻への未練があるからかもしれませんが、そうであったとしても義母を心配して色々と骨を折る姿に、人と人の温かな繋がりを感じて、それが深く心に響きました。 そして本作のメインエピソードへ。“本日公休”と店に札を出し、遠方まで訪問散髪に向かおうとする母に対して、実の子どもたちは心配しつつも、「そんな儲からない仕事なんか!」「わざわざ行く必要ある!?」的な態度を取ってしまうんです。でもやっぱり義理の息子だけは、自分が車を運転していくと申し出てくれて。 血の繋がりって何なんだろうと思いつつ、それでもやっぱり実の子どもは何があっても第一に心配だし、可愛いし、守ってあげたい、幸せになって欲しいと願うのが母なんだな、としみじみさせられます。(確か『東京物語』にも、孫たちも可愛いけれど、やっぱり自分の子供たちに会えたのが一番嬉しかった、というお母さんの言葉があった気がします)