考察『光る君へ』5話 六条の荒れ果てた屋敷での辛い告白…道長「俺は、まひろを信じる」吉高、柄本の繊細な芝居に泣く
藤原公任の「いらん言葉」
若き貴公子たちの学問しつつのバチバチ。 ここで集った若者たちの現状を見てみよう。公任(町田啓太)の父は関白・頼忠(橋爪淳)だ。姉・遵子(中村静香)は譲位した円融院の中宮だが皇子はいない。斉信(金田哲)の父は大納言・為光(阪田マサノブ)。妹が花山天皇(本郷奏多)の寵姫、いつ子を成してもおかしくない。道長の父は右大臣・兼家(段田安則)。姉は東宮懐仁親王の母・詮子、将来の国母。この中で腰が低く、皆に気を遣っている行成(渡辺大知)は右少将であった父を早くに亡くしたが、花山天皇の従兄弟であり官位を得ている。 そう。この作品では、公任だけが花山帝とも次の帝である東宮懐仁親王とも繋がりがないのだ。それを意識して敢えて強気に出ているのか、斉信相手に挑発的な発言が相次いだ。 このドラマレビューの第2回目で、史料に残る公任について「自信満々のためか、いらん言葉が軽やかに出てしまうたちであったらしい」と述べた。藤原公任は自分の姉が円融帝の中宮として立后した際、兼家の東三条殿の前を通りかかり屋敷を覗きこんで、 「このお屋敷の女御(詮子)は、いつお后に立たれるんだい?」 こんな言葉でからかい、東三条殿の人々を怒らせたというエピソードが『大鏡』にある(後年、詮子の女房から痛烈なカウンターパンチをくらい「自分もあの時は言い過ぎたから……」と公任が恥じ入ったという記述もある)。このドラマの彼は、そうした軽口で他人の怒りを買ってしまうタイプだろうかと思いながら観ていたが、 「俺たちが競い合うより、先に手を組んだほうがよいと申しているのだ」という斉信相手に 「俺より官位が上になったら言ってくれ」。 これは……言ってるな。この公任なら、東三条殿の門前でいらんことを言ってるわ。ただ彼の軽口については、史実の紫式部を我々に伝える重要なエピソードがある。ドラマ内でもきっと登場する。その瞬間を楽しみに待とう。
三人の重臣の酒宴
土御門殿において、関白・頼忠(橋爪淳)、左大臣・源雅信(益岡徹)、右大臣・兼家、珍しい取り合わせの酒宴。花山帝が出す荘園整理令を前に、呉越同舟の結束というところか。荘園は、貴族や寺院が持つ私有地、私的財産である。それを整理し、国庫に入ってくる税を増やすこの政策は花山天皇から80年ほど昔に醍醐天皇が行っており、醍醐天皇はご自身がリーダーシップを発揮して政を行った賢帝と讃えられている。花山天皇がなさろうとしていることはかつての聖代に倣いつつ、三人の重臣が口を揃えて言うとおり「我らの力を削ぐ」ものだった。 やけっぱちで煽る酒に、関白の声のボリュームも上がる。そのボリュームに、いちいち左右大臣が反応するのやめてほしい、笑いが止まらなくなるから。