考察『光る君へ』5話 六条の荒れ果てた屋敷での辛い告白…道長「俺は、まひろを信じる」吉高、柄本の繊細な芝居に泣く
帝の御子を呪詛
忯子が懐妊したらしいという噂を聞き、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)に呪詛を申しつける兼家、拒否する晴明。 第1話で円融帝の女御・遵子に子ができぬようにという呪詛は引き受けたが、女御の腹に宿った御子を呪うことはできぬという。これまで都、内裏の暗部を一手に引き受けてきたような彼であるが、明確な線引きはあるらしい。 そして月明りのなか、御簾の向こうに現れる関白、左大臣、参議の面々。 兼家の長男・道隆もいる。帝の御子を呪詛するという陰謀に加わっている。もう穢れなき存在には戻れない。 恐ろしい脅しを前に引き受けたのだろうが「帝の御子を呪詛し奉るには我が命を削らねばなりませぬ」という台詞。安倍晴明は85歳まで生きている。今回の呪詛がなければ120歳くらいの寿命だったのだろうかと、怖いシーンなのに振り返るとじわじわ可笑しくなった。
六条の荒れ果てた屋敷で
道長がまひろに宛てた文で、為時の家に行く、と書いていたので観てる私が焦ってしまった。 冒頭の姫君サロンで五節の舞姫で見染められた姫に「お渡りがあった」と赤染衛門が言ったが、まひろにそのつもりがなくとも、娘がいる為時の家に公達が訪ねて行くというのは世間的に見れば「お渡り」とみなされるだろう。そして、まひろと道長の家の格差であれば間違いなく愛人……。 為時の家でなく他の場所で待ち合わせ。愛人ルートが回避されてホッとしたのち、その待ち合わせ場所が六条の荒れ果てた屋敷。全国の源氏物語ファンは「六条!!」ガタッと立ち上がりかけたのではないだろうか。 物語の中で数々の女性と浮き名を流した光源氏だったが、彼が深く愛し一生忘れられない女性、夕顔。その夕顔を連れて秘密の一夜を過ごしたのが、六条の「なにがしの院」、荒れ果て寂れた屋敷だったのだ。六条に、まひろと道長が! この作品のまひろ……紫式部は、かつての自分の経験、思い出を籠めて『源氏物語』を書くことになるのか。そしてその物語は、当然のことながら道長も読むのだ。どうしよう、今から心が掻き乱される。 まひろから道長への告白。 かつて道兼に母が惨殺されたこと。父が母の死因を偽らねばならなかったこと。 「兄はそのようなことをする人ではないとは言わないの」 まひろの問いに、兄は暴力的な人間であるからとか、何よりもあの日、返り血を浴びた姿を見たからというのではなく 「俺は、まひろを信じる」。 まひろが言うのだから信じるのだと。その心のこもった率直な言葉によって、まひろは6年間胸に秘めていた苦しみを吐き出すことができた。父を責めていたのではない、本当に責めていたのは自分。母の死は私のせいなのだと、ずっと苦しんでいた。 子どものように咽び泣くまひろ……吉高由里子と、彼女を抱きしめるでも肩を抱くでもなく、おずおずと手を背に添える道長……柄本佑と。ふたりの繊細な芝居に泣かされた。 貴族ではない直秀に「直秀殿」と呼びかけるような男だからこそ、彼女に近づくなと言っていた直秀も、まひろを任せる気になったのだろう。そりゃこれまでのふたりのやり取りを聞いていたら、立ち去るしかない。しかし、おそらく観ている全員が直秀と共に呟いた「帰るのかよ」。 殴りに帰るんだね道長。まひろの代わりに、兄を殴りに走るんだね。第1話からずっと「俺は怒るのは嫌い」と言っていたのに、まひろのために。 初めて怒りを爆発させる道長、俺は父上に庇護されてるんだぜと勝ち誇る道兼、それらを上回る迫力で観ている者の心胆寒からしめる、兼家の哄笑。この怪物を頂く藤原北家、これからどうなってゆくのか。