考察『光る君へ』5話 六条の荒れ果てた屋敷での辛い告白…道長「俺は、まひろを信じる」吉高、柄本の繊細な芝居に泣く
駆け抜ける倫子!
そして、この場面で駆け抜ける倫子! 第3話の「すごーい!」と同じく「これは…ど、どっち!?」となった。本当に猫の小麻呂ちゃんを追いかけて、うっかりお客様の前に姿を現してしまっただけなのか。それとも、ある意図をもった行動か。 父・雅信が言う「あのような礼儀知らずの娘。入内など、とてもとても…」。倫子が入内するか否か、ずっと注視していた右大臣・兼家を安心させつつ、入内させる気はない未婚の姫、しかも抜群に「麗しい姫」が我が家にいるのですと強調しているかのような。 冒頭の姫君サロンでの「右大臣家の三人のご兄弟はそんなに見目麗しいの?」が思い出される。倫子自身の興味、母・穆子(石野真子)の「もう22歳ですよ」、花山帝に立ち向かうため右大臣家と手を結ぶ必要性が出てきた父・雅信……土御門殿家族の考えが一致し、導き出した答えがあっての、あの駆け抜け場面ではなかったか。 第一、あの倫子があんなはしたない真似をうっかりやらかすかなぁ?と。 源氏物語ファンにとっては「姫君が姿を見られるきっかけは、やっぱり猫ですよね!」と頷く場面でもあった(ドラマレビュー4話を参照)。
朗らかな男、藤原道綱
『蜻蛉日記』の作者、藤原道綱母(寧子/財前直見)登場! 平安女流日記文学のパイオニアだ。 『蜻蛉日記』は彼女が兼家と結ばれた20歳から40歳までの21年間、夫婦の生活を綴っている。お互いに若き日、兼家から熱心に求婚されたこと。道綱を産んだこと。彼に別の女ができて喧嘩が絶えなくなったこと……当時の女性の苦しみ悲しみが伝わるが、このドラマの視聴者として読むと、愛を語る兼家、妻の激怒に困らされる兼家、寺に籠った妻を説得して連れ戻す兼家、母を亡くして悲しみに沈む妻を慰める兼家……様々な彼の顔も浮き彫りになる。 藤原道綱母は、 小倉百人一首 なげきつつひとりぬる夜の明くるまはいかに久しきものかとは知る (嘆き悲しみながら寝る、孤独な夜が明けるまでの時間。それがどれだけ長いか、あなたはご存知ないでしょうね) この歌の作者でもある。これを贈られた男が兼家だ。 兼家と寧子を前に舞う朗らかな男。この夫婦の息子、道綱(上地雄輔)。道綱は弓と舞の名手との呼び声高い人物だ。反面『小右記』では実資に「一文不通(何も知らない)」「自分の名前くらいしか漢字を読めない」とクソミソにけなされている。 それを、ドラマでは父・兼家に、嫡妻・時姫(三石琴乃)の産んだ道隆・道兼・道長三兄弟の競争相手にならぬよう「控えめにしておれ」るよう、政治の場で活躍する公達としての教育を受けさせてもらえなかったから、という描写。 なんと残酷な……と思うと同時に、一族を率いて朝廷の頂に立つべく、父から直に手ほどきを受けている三兄弟がちっとも幸せそうに見えないので、人間としてはどちらが恵まれているのかと考え込んでしまう。 ちなみに、道綱は同時代を生きた女流歌人・和泉式部には「あはれを知る人」と評されている。政治家としてはともかく、情緒豊かな男だったのではないか。