県外出身選手集め批判の葛藤を乗り越えて青森山田が2年ぶり高校サッカーV
青森山田は中高一貫校だが、バスケスやすべて途中出場で3ゴールを決めたFW小松慧(けいと=3年)のように、高校から入ってくる選手も多い。そして、県外出身者のすべてを驚かせ、途方に暮れさせ、最後には結束させる触媒の役割を果たしてきたのが雪深い冬場のトレーニングである。 「本当に想像を絶する過酷さというか、全身が筋肉痛になって歩くのもトイレに行くのもやっと、という状況になるんですけど……それなりの覚悟をもって青森へやって来た仲間たちだったので、何とか一緒に乗り越えることができました。彼らがいなかったら、できなかったことだと思っています」 飯田が辛かった高校3年間を振り返れば、ここまでの人生の3分の1を青森県で過ごした檀崎は、県内なのか、あるいは県外なのかといった違いに関して「別に関係ないと思う」と言い、こう続ける。 「青森県の、そして青森山田の代表としてプライドをかけて、自信をもってプレーしてきた成果がこれ(優勝)だと思うので。そう(県外出身者が多いと)言われても、別に何とも思いません」 大志を抱く者同士が自ら希望して青森の地に集い、切磋琢磨しながら努力を積み重ねる。同じ目標のもとでは出身うんぬんも、ましてや有望選手を集めているという批判があっても動じない。むしろ言葉を介さずともお互いを思いやれる、究極の一体感が生まれてくる。その象徴となる秘話がある。 昨年12月上旬に、黒田監督は突然のキャプテン交代を命じている。新たに指名された飯田は選手たちの前で所信を表明した後に「竜孔、少し話があるから残ってほしい」と、前キャプテンとなった檀崎を呼び止めた。他の選手たちをミーティングルームから出した後で、静かに切り出した。 「お前が背負っていた重圧は、オレが半分預かる。だから、お前はプレーに集中してくれ」 次の瞬間、檀崎は大粒の涙を流しながら「ありがとう」と言葉を返してきた。入学直後からAチームで活躍し、全国選手権のメンバーにも3年連続で名前を連ねてきた檀崎の胸中と、思わず流した涙の意味を飯田はこう慮る。 「キャプテン交代に関しては檀崎本人も驚いていたし、思うこともたくさんあったはずですけど、青森山田のキャプテンと『10番』を背負い、なおかつエースストライカーも務めるのは、相当な重圧との戦いでもあったと思う。それを少しでも軽くできればと思い、自分がキャプテンの分だけ預かると言いました。悔し涙であり、重圧が軽くなって(ホッとした)涙でもあると思っています」