県外出身選手集め批判の葛藤を乗り越えて青森山田が2年ぶり高校サッカーV
平成最後の王者誕生を告げる主審のホイッスルが、晴れわたった真冬の空に鳴り響く。次の瞬間、埼玉スタジアムのピッチに倒れ込んだのは、前回大会に続いて準優勝に終わった流通経済大柏(千葉)ではなく、2年ぶり2度目の全国制覇を成就させた青森山田(青森)のイレブンだった。 切れ味鋭いドリブルで右タッチライン際を支配したMFバスケス・バイロン(3年)が、最終ラインにそびえ立った身長192cmのDF三國ケネディエブス(3年)が、そして同点と逆転の2ゴールを決めたMF檀崎竜孔(3年)が突っ伏し、あるいは仰向けになって涙腺を決壊させている。 14日午後2時8分にキックオフされた第97回全国高校サッカー選手権決勝。流通経済大柏に先制点を許しながらも慌てず、得意とするサイド攻撃からチャンスを作り、3つのゴールを奪って歓喜の雄叫びをあげた選手たちへ、1995年から青森山田を率いる黒田剛監督(48)は最大級の賛辞を送った。 「準々決勝と準決勝を含めて先制点を奪われ、描いていたゲームプランとは異なった試合への入り方をずっと重ねてきた。そのなかで精神力をしっかりとコントロールしながら追いつき、逆転するパワーをもったチームに成長したことを褒めてあげたい」 決勝までの5試合で、11人もの選手が合計17ゴールをあげて頂点へ駆けあがった。前評判にたがわぬ実力を、試合を重ねるごとにどんどん増幅させていった一方で、心ない指摘も選手たちの耳に入ってくるようになった。青森県代表でありながら、青森県出身の選手がいない、と。 高校野球でよく聞かれる、県外から選手を集めることに対する批判や反論。実際、今大会に選手登録された総勢30人のなかで青森県出身者はDF藤原優大(1年)しかいない。しかも、大津(熊本)との3回戦でゴールを決めた期待のルーキーは、すべて後半途中からの出場だった。 つまり、先発した11人はすべて県外出身者だった。たとえば三國は東京都東村山市で、檀崎は宮城県名取市でそれぞれ生まれ育ち、中学への進学を前にして心技体のすべてでさらなる成長を期して、卒業後にはJリーガーになりたいという夢を抱きながら青森山田中学の門を叩いた。 「確かに全国から選手たちが集まってきたチームではありますけど、それぞれが同じ思いを抱いて青森県に来ました。その意味ではどこの出身とかは関係なく、青森県のために、という思いを必ずもちながら練習や試合に臨んできました」 171人を数える部員全員の思いを代弁する、キャプテンのGK飯田雅浩(3年)も東京都杉並区の出身。東京ヴェルディのジュニアユースで将来を嘱望されながらも危機感を抱き、環境を変えるなら早いほうがいい、と自ら希望して中学3年生の2学期から青森山田中学へ転校した。