あの「セロテープ」が価格競争から脱却できたワケ 「座って商談をする時間ももらえなかった」
物価高が続く昨今、消費者心理としてはいいものをなるべく安く買いたいと考えますが、企業、生産者としてはコスト高を値段に反映させたい、でも値上げで顧客離れするのは困る、と悩ましいところでしょう。リブランディングコンサルタントの深井賢一さんの著者『売れる「値上げ」』から、ニチバンが「セロテープ」で起死回生を図ったエピソードを一部引用・再編集してご紹介します。 ■一時期、苦境に陥った『セロテープ』 『セロテープ』という接着テープがあることを知らない人はいないでしょう。しかし、これがニチバンの登録商標であることは、あまり知られていません。
『セロテープ』は、木材チップからできるパルプ=植物繊維のかたまりを溶かしてつくられる「セロハン」に、粘着剤を塗布した「セロハンテープ」の一種です。1930年代にアメリカの3M社(『スコッチテープ』の商品名で知られています)が世界で初めて開発・商品化。日本では1947年に、絆創膏(ばんそうこう)を基幹商品としていたニチバン(当時は日絆工業)が、戦後いち早く開発・製造に取り組みました。GHQがアメリカ本国からのセロハンテープの搬送遅れに困り果て、急きょ依頼をしてきたのに応えたことがきっかけです。
翌1948年には試作品をGHQに納品。同年6月には『セロテープ』を国産初のセロハンテープとして世に送り出しました。 その後、国内でも化学メーカーや文具メーカーなどが次々とセロハンテープの製造をし、市場に参入してきました。しかし、発売から76年経った現在も、ニチバンの『セロテープ』は、セロハンテープの国内シェア65%を誇るトップメーカーとして君臨しています。 ■最大の差異化は「天然素材」 国産初という歴史の古さや国内シェアの高さが『セロテープ』がセロハンテープの代名詞になっているゆえんですが、ほかにも『セロテープ』が競合製品に比べて誇れる特性があります。それは粘着剤も天然ゴムや松やになどの天然樹脂を使用し、植物由来の原材料からつくられていることです。巻き芯にも古紙パルプ配合率100%の再生紙が使用されています。