〈海外から高評価の農協〉なぜなのか?タレント職員から見る長所と短所
「日本のJA(農協)は生産から販売まで農家をサポートしており、すばらしい」「農家がJAに出荷する際、売れるかどうかは分からないのに、本当に販売代金を支払うのか?」――。これらは2024年6月に台湾での技術研修で筆者が日本の状況を説明した際に、海外の研修員から出た驚きの声である。 【写真】JAのオールラウンドプレーヤーによる活動 来日するJICA研修員や海外を訪問した時に日本の農業について説明すると、いつも興味を持たれ高評価なのが、JAである。筆者も、国内での評価との違いにしばしば戸惑うほどだ。今回は筆者の経験を通じてJAの長所・短所について考察し、今後のJAのあり方についても考えてみたい。
生産から販売まで手掛ける「オールラウンドプレーヤー」
徳島県の特産物であるサツマイモ「なると金時」。その生産から販売まで支援しているのがJA里浦(徳島県鳴門市)だ。参事の中條啓司さんが生産指導から輸出の商談にまでかかわる。 JA里浦管内ではサツマイモが330ヘクタール(ha)、ダイコンが100ha栽培されている。中條さんは、JA里浦ファームというJA里浦の100%子会社の農産物生産・加工・販売法人の代表でもある。 管内農家の平均経営面積は1.5haで、規模の大きい農家の経営規模は3ha程度。5ha以上になると法人化している農家も増えつつある。現在、JA全体での売上は30億円だが、昭和50年代では50億円に達したこともあり、全国屈指のサツマイモの産地でさえも減少傾向だ。 この産地での中條さんの活動は幅広い。まず、JA職員の幹部として、「里むすめ」というなると金時のブランド普及に力を入れている。営農指導員時代は、なると金時の栽培指導に従事し、地域の農業振興に奮闘してきた。
たとえば、中條さんが中心となり、県の研究機関とも連携し、連作障害による病害の克服にも取り組んでいる。土壌病害は深刻な被害をもたらしたが、土壌消毒のための新技術を導入。病害発生率を低下させ、収量・品質の向上につなげた。 最近では、「里むすめフェス2023」というイベントを通じて地域の魅力を発信し、地産地消の推進にも貢献している。このイベントでは、地域の特産品を活用した商品を提供すると共に、レシピコンテストなど多様なコンテンツを準備。地域内外から幅広い層の多くの来場者を集めることを成功させた。また、中條さんは、里浦の海外輸出の商談まで自らが行っている。 つまり中條さんは、生産から販売まで一貫して手掛けるいわば、「なると金時」を支えるJA里浦の幹部かつ看板職員であり、「オールランドプレーヤー」でもある。 前述の台湾での研修で、ある東南アジアの研修員は「自国の協同組合は生産が中心で、販売まで関わっている組合は少ない。販売まで強く関与するのは驚きだ」と研修後にわざわざ感想を伝えにきてくれた。 実は、筆者は、このような「オールラウンドプレーヤー」に、愛媛県今治市の柑橘産地、山梨県笛吹市の桃産地でも出会っている。全国有数の産地には生産から販売まで知り尽くした「オールラウンドプレーヤー」のJA職員が多く存在し、産地を支える。これは、世界から驚きと羨望の眼差しが向けられているのだ。