〈海外から高評価の農協〉なぜなのか?タレント職員から見る長所と短所
「一人も取り残さず」先進技術を導入
ITなどの最新機器を活用したスマート農業をJA職員が支援し、効率的な経営も進めている。新潟県のJA北新潟の旧JAにいがた岩船出身の山田薫さんは、JA全農が普及を進める栽培管理支援システム「ザルビオフィールドマネージャー(ドイツのBASF社が開発。以下、「ザルビオ」)」を使用して営農指導の効率化を図っている。 ザルビオは、衛星画像を人工知能(AI)で分析し、生育状況や病害の発生予測、天気予報などを基にした農薬・肥料の散布日時の推奨などを行う。圃場(ほじょう)の衛生画像はほぼ毎日撮影・自動更新され、エリアごとの作物生育状況や病害発生リスクも表示される。 ザルビオを導入したきっかけについて山田さんは「管内有数の篤農家が経験的に圃場の肥沃度の差異を把握していたのだが、それがザルビオ画像分析したものと一致していた」と話す。
山田さんは「これは他の農家の圃場でも当てはまるかもしれない」と考え、JA全体で取り組むことになった。具体的には、生育状況から逆算した土壌の肥沃度によって、圃場ごとに施肥のやり方を変えるように生産者に指示するなど、データに基づいた科学的な指導である。 JA北新潟の旧JAにいがた岩船管内では、地域一帯の圃場データをザルビオに登録し、営農指導に活用している。これによって、個別の農家を点としてとらえるのではなく、地域全体で栽培状況の差異の「見える化」を可能にした。 「このシステムは新人の営農指導員が網羅的に個々の栽培技術の違いを理解できる。今までよりも稲作の栽培技術を短期間で学ぶのにも役立っており、若手営農指導員の育成のツールにもなっている。今まで5年かかっていた技術習得が2~3年で可能になる」と山田さんは話す。 施肥・追肥を行うために、ザルビオに連動する農機の実証も進めている。スマートフォンやパソコンを持っていない高齢者に対しては、JAが一括購入したザルビオを営農指導員と共に使用し、栽培をサポートしている。地域として生産者を一人も取り残さないとの取り組みだ。 このようにJA北新潟では、ザルビオを旧JAにいがた岩船管内の地域全体で一括導入し、営農指導に活用することで、地域全体の米の品質と収穫量を向上させることを目指している。農家の経営向上と営農指導員の育成を同時並行で行う、いわば地域農業全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)の先進事例である。 これを推進しているのが、山田さんはじめ、意欲的な若手営農指導員たちだ。山田さんによると収量増や品質向上などの結果はでているようだ。ただし、課題は導入コストで、「費用対効果を明確に算出することが難しく、補助事業などを利用しないとJA経営の負担になる」そうだ。 このようなJA全体でのザルビオ活用は、三重県でも行われており、24年1月に筆者がJICA研修員とJAみえきたを訪問した際、若手営農指導員がJAの営農指導での利用方法を分かりやすく説明してくれた。研修員からは、「JAが先頭に立ってDXを推進している」と高評価だった。