《王貞治の巻》打撃投手がイップスになりそうなほどの重圧を放ったケージ裏からの鋭い眼光【ホークス一筋37年 元名物広報が見た「鷹の真実」】
【ホークス一筋37年 元名物広報が見た「鷹の真実」】#41 王貞治 ◇ ◇ ◇ 【写真】《佐々木誠の巻》細かい気遣いと面倒見の良さが随一の兄貴分…首位打者争いでは逆に僕が気負って円形脱毛症になった 「世界の王」こと王貞治球団会長兼特別チームアドバイザー(84)の性格を一言で言うと、「球界一の負けず嫌い」です。 野球が大好きで、いまでも野球の話になると目がギラギラする。監督時代、外野手が2、3歩下がって捕球する程度の外野フライでも、「行っただろ!」と叫んでいたほど。負けが込むたびに「緊急ミーティング」を頻繁に行っていたのは有名な話です。 そんな王さんがダイエーの監督になったのは1994年オフ。その年のシーズン終盤、視察のために西武ドームに来ており、当時打撃投手だった僕は心臓がバクバク。子どもの頃から憧れていた王さんの前で投げるのだから、それも無理はないでしょう。 監督就任後も、しばらくはチーム全体に緊張感がありました。王さんは「もう身内なんだから俺に気を使わなくていいよ」とフレンドリーに接しようとしていましたが、僕は内心、「それ無理」と緊張しっぱなしでした(笑)。 しかも、フリー打撃中はケージの後ろから鋭い眼光でじっと見ているので、僕ら打撃投手への「圧」も凄まじい。若い打撃投手から“苦情”を聞いた山村善則打撃コーチは、王さんに「あの、バッピがですね、監督がそこで見ていると緊張でイップスになりそうだと言っているんで……。もしよかったら、違うところで見てもらえないでしょうか」と恐る恐る伝えていました。 その打撃投手から「田尻さんはよく普通に投げられますね」と言われたので、僕はこう答えました。 「バカタレ、俺はおまえよりドキドキや。王監督の現役時代を知っとるけん。868本塁打もテレビで見てる世代やから、ドキドキもええとこやぞ」 そんな王さんですが、普段は紳士そのもの。実は、僕の嫁の父が王さんの大ファン。嫁もバレンタインデーの日には、王さんにチョコレートやハンカチなどを贈っていました。 するとある日、家に帰ったら留守番電話に録音が入っている。 「王ですが、〇〇さん、チョコレートありがとう」 僕とは球場で毎日会うので、その時に「奥さんに伝えておいて」と言えば済むところを、そうではなくきちんと自分の口から感謝を述べる。本当に律義な方です。ちなみに嫁は留守録に大興奮して、「これキープ!」とテープを外して保存しています(笑)。 これをもって本連載は最終回となります。9月から3カ月、お付き合いいただき、ありがとうございました。またどこかでホークスファンの皆さまにお会いできる日を楽しみにしています。(おわり) (田尻一郎/元ソフトバンクホークス広報)