「ゲノム編集」食品は果たして普及するのか 浸透の鍵は「悩みの解消」、まずは抵抗少ない分野から
ゲノム編集技術を応用した食品が人々の関心を集めている。ゲノムはDNAの全ての遺伝情報を指し、特定の場所を人為的に切り取ると遺伝子を改変できる。今年に入り、ゲノム編集でアレルギー物質を低減した卵に関する研究成果に好意的な反応が多数寄せられた。 【図解】ゲノム編集による重い貧血症の治療
この技術は気候変動による食料不足といった社会課題を克服する手段になり得る。味や栄養を追求するよりも、人々の悩みを解消する目的で使われる方が消費者は抵抗を感じにくく、こうした分野から始めることが浸透の鍵になりそうだ。ゲノム編集に携わる研究者は、科学的根拠に基づく個々人の冷静な判断を期待している。(共同通信=浜田珠実) ▽社会課題の解決 厚生労働省は2019年10月、ゲノム編集食品に関する取り扱いルールを定めた。まだ食卓に普及したとは言えないが、潮目は変わりつつある。今年4月、キユーピーと広島大のグループが共同研究の結果を発表した。 「ゲノム編集技術で卵アレルギーの主な原因となるタンパク質を取り除いた鶏卵の安全性を確認した」 鶏卵には複数のアレルギー原因物質が含まれている。そのうち加熱しても除去できないタンパク質「オボムコイド」に関連する遺伝子の働きを止めた鶏をつくる。その鶏が産んだ卵がアレルギー低減卵になるという。
共同通信が4月26日に配信した記事はヤフーニュースに掲載され、今月12日時点で387件のコメントが付いている。同意を示す「共感した」ボタンが千件以上押されたコメントを見ると、「卵アレルギーの方にはうれしいニュース。社会的な意義がある」「選択肢が広がるのがうれしい。毎日何個も食べる物ではないので忌避感はない」などとつづられていた。 ゲノム編集食品に対し、これまではリスクを懸念する消費者の声が目立っていたが、このニュースは比較的好意的に受け止められているようだ。 研究に使ったゲノム編集技術「プラチナタレン」を開発したのは、広島県東広島市のスタートアップ企業、プラチナバイオ。最高経営責任者(CEO)の奥原啓輔氏は、このように消費者の反応が変わったのは、「社会課題の解決」という視点で開発を進めたことがポイントだったと考えている。 「食品に対する消費者の感覚はとても敏感。ゲノム編集に対して感じるリスクと、アレルギーがある人でも食べられるという利点をてんびんにかけ、それぞれが判断した結果だと思う。食の選択肢を増やしたい、社会課題を解決したいという思いに期待してくれる人がいると分かった」