「ゲノム編集」食品は果たして普及するのか 浸透の鍵は「悩みの解消」、まずは抵抗少ない分野から
▽スーパーは様子見が続く 今月までに厚生労働省に届け出た食品は6種類で、うち市場に出された食品は3種類。将来の食料危機や気候変動を見据え、安定的に生産するという目的の食品が多い。筑波大発のベンチャー企業サナテックシードが開発した、血圧を下げる作用があるとされる成分「GABA(ギャバ)」を多く含むトマトは届け出から約2年後の今年3月、スーパーでの販売が少しずつ始まった。 値段は150グラム(7~10個)で500円前後。東京の「三浦屋」「ワイズマート」や、大手スーパーの一部などで店頭に並ぶ。 ただ、厚労省が2019年10月に取り扱いルールを定めた際に報道されたような「明日から食卓に並ぶかもしれない」という状況にはほど遠い。 ゲノム編集食品に対する消費者心理の研究を進める名古屋大の立川雅司教授は、今後の鍵を握るのは大手スーパーマーケットや食品メーカーの動きだとみる。 「消費者と直接向き合う大手スーパーがどう判断するかが鍵になる。今は様子見の段階だろう。厚労省へすでに届け出ているのも、ブランドイメージを気にする必要がない大学発ベンチャーや外資系企業に限られている」
示唆的な過去もある。遺伝子組み換え食品の表示ルールについて議論されていた1999年、大手飲料メーカーがビール副原料のトウモロコシを「遺伝子組み換えでないものに切り替える」と表明し、同業他社が後を追った。立川教授は「あれをきっかけに議論の方向性が固まった。ゲノム編集食品についても、大企業がどういう対応を示すのかが重要になってくる」と指摘する。 ▽ゲノム編集の技術を相対的に捉える プラチナバイオは、回転ずし「スシロー」を運営するフード&ライフカンパニーズと魚の養殖事業にも取り組んでいる。魚の遺伝子を解析し、今後の海水温上昇に備え「高温でも育つ遺伝子を持った魚」など、養殖に適した個体を選抜する。遺伝子は「解析」するだけで、「改変」はしない。 プラチナバイオの奥原氏は、ゲノム編集というアプローチを相対的に捉えている。 「ゲノム編集はあくまでも一つの手段で、それを使った食品を世に出したいわけではない。社会の理解を得やすい手段を選ぶ方が、早く生産現場の役に立てる」