「ゲノム編集」食品は果たして普及するのか 浸透の鍵は「悩みの解消」、まずは抵抗少ない分野から
名大の立川教授は、そもそもゲノム編集は市場に大きな革命をもたらすものではないと考察している。 現在、厚労省への届け出制度の対象となるのは、狙った遺伝子を切断するだけの「欠失型」と呼ばれる手法だ。混同されがちな遺伝子組み換え食品は他の生物の遺伝子を組み込むため、自然界では起こらない変化をもたらす可能性があった。 だが、欠失型では文字通り遺伝子を失わせるのみ。交配や放射線照射といった、通常の品種改良でも起こり得る変化に限られる。 これまでの品種改良には時間がかかったが、欠失型のゲノム編集はその時間を短縮させられるという利点があるという。立川教授は「自然の変化をまねしているだけ。将来的にはいくつもある品種改良技術のうちの一つとして組み込まれていくだろう」と推測する。 ▽安全を確保するとは何か 科学者たちは、「欠失型」というゲノム編集の特性を説明し、ゲノム編集が本当に求められる市場を見極めることで、技術を実社会に応用するための素地を整えている。それでも、2019年に「ゲノム編集食品は安全か」という問いが投げかけられてから、消費者の感覚は大きく変わっていない。
立川教授は、「安全性は特定の技術によってでなく、複合的に確保するものだ」と、問いそのものの妥当性を疑う。 狙った以外の遺伝子が改変されてしまう『オフターゲット』の確率を減らす技術を開発したり、ゲノム編集した生物を交配して世代を重ねたりすることで安全性を確認できると主張している。