室内に5つ屋外に3つの床レベルがある家?その理由とは。建築家ならではの才能を知る、若手アーキテクトの実例&フィロソフィー紹介
「余白の働き」を意識し始めたきっかけ、またその効果とは?
後藤さんが余白を意識するようになったのは、大学時代にスイスの建築家、ペーター・メルクリの作品を訪れたときのこと。スイスの山奥にある彫刻家、ハンス・ヨーゼフソンの作品を展示した「彫刻の家」で、余白の力を感じたといいます。 「作品ごとにふさわしいプロポーションの空間が与えられていて、彫刻のまわりには適切な余白があり、それがあるから彫刻を理解できる。余白の働きを鮮烈に体感しました」 余白の働きを得るには、寸法と向き合うことが必要、とも。 「例えば、つい『リビングの広さならこのくらい』と考えがちですが、寸法を当たり前に捉えないようにしています。広さや天井高など一つひとつを丁寧に検証し、寸法が人の感覚や行動にどのような作用をもたらすのかを考える。それを追求することが居心地のよさにもつながると思います」
寸法を熟慮しなければ、無駄な余白や隙間になってしまうこともあります。後藤さんが設計した空間は、段差があれば座りたくなり、ちょっとした隙間には何かを置きたくなる。 まさに余白が働いている空間です。
コラム/設計のハイライトをピックアップ!
上に紹介した実例の建築的なポイントを2つに絞っておさらいします。 ①高さの異なる5つの床が連なった空間構成 南側には平屋が2つ、北側には2階建ての箱が2つ並び、4つの箱が少しずつずれながら連なっています。それらが集まる中心部分は箱の大きさ、床や天井のレベル差によってずれが生じ、空間に余白が生まれることに。多方向に視線が抜け、時間によってさまざまな表情の光が差し込みます。 ②構造を工夫し、浮遊したような床を実現 これまでの写真でもわかるように、ダイニングキッチンの頭上にある2階の床は宙に浮いたようになっています。これは2階の一部を鉄骨梁とし、そこから床を吊ることで実現。壁や柱を設けないことで、視線のヌケと空間の連続性が生まれ、また光と風が家全体に行き渡るという効果も得られました。 (モダンリビングNo.271 2023年11月号より)
「余白」「寸法」など、後藤さんがいかに専門的で、その道を極めた者にしかない視点をもっているかがわかったのではないでしょうか。 素人には見えないところで、建築家がどこまでも深く、心地よい空間づくりのために熱を注いでくれている。独自の美学をもつ後藤周平さんのクリエイティブに、今後も注目です。