ファッション好事家たちが耽溺する 「人生の相棒5番勝負」──Vol1.澤田一誠 vs 栗原道彦 (後編)
人生の相棒5選について大いに語ってもらう新連載「人生の相棒5番勝負」がスタート。記念すべき第1回目は原宿の“ミスター乱暴者”こと「フェイクアルファ」の店長 澤田一誠と、日本有数のヴィンテージバイヤーで、「ミスタークリーン」のオーナーである栗原道彦が登場。後編は栗原の相棒に迫る! 【写真の記事を読む】人生の相棒5選について大いに語ってもらう新連載「人生の相棒5番勝負」がスタート。「ミスタークリーン」のオーナーである栗原道彦の5選をチェック!。
501XXなどのスター選手でなく、地味でもデザイン性やロマンのあるヴィンテージが好き(栗原)
ファッション好事家の愛は一途だ。愛用歴20年戦士も珍しくないほど、一度惚れ込んだアイテムを大事に使い続ける人が多い。本連載では、毎回ふたりのファッション好事家を迎え、人生をともにする愛用品について語ってもらう。日本が誇るヴィンテージ界の旗手に、渾身のアイテムを披露してもらった。 ダブルウェアのカバーオールはひねりの効いたデザインが魅力 栗原 澤田さんはヴィンテージに対して一途ですけど、僕はぶれまくりなタイプなので恐縮しちゃいます……。広義で言えば澤田さんと同じ“古着好き”ということで、ご理解いただければと。 澤田 何をおっしゃいますか(笑)。よろしくお願いします。 ダブルウェアはアメリカ・ボストン発祥のワークウェアブランド、東海岸ならではのユニークなデザインの個体が見つかることが多い。 栗原 50~60年代製のダブルウェアのカバーオール。これは去年、友人からプレゼントしてもらいました。僕はデニムのカバーオールとかGジャンとか、いわゆる一般的に人気のヴィンテージをほぼ持っておらず、どちらかというとこういった、ややひねりの効いたものが好きなんです。このダブルウェアもデニムではなく、立ち襟でユニフォーム系のカバーオールといいますか。 澤田 おっしゃる通り、ゴリゴリのワークウェアというよりは、ユニフォームとか、ファッション系に作られたものみたいですね。 栗原 生地はダックなのですが、ほかのブランドと比べるとややオンスは低いと思います。 澤田 たしかに、同年代のカーハートなどと比べるとかなり薄手ですね。 栗原 ダブルウェアの服は、古いものになるともっと変わったディテールのものが多く、また50~60年代のものは、シンプルだけどユニークな仕様のものが多いですよね。 澤田 そうですね。これも珍しいですが、ダブルウェアは変形カバーオールやワークパンツが多いという印象が強いです。 意外と手が込んでる!? キャンパスのシャンブレーシャツ 栗原 おそらく60年代後半~70年代前半にかけて作られたシャツです。ワークウェアをベースにファッション向けに作られた、この年代の頃のものが結構好きで、ほかにもいくつか持っています。ブランドでいう今回のキャンパスやケニントンなどですね。これを最初に見たときは元のオーナーがブリーチしたのかなと思ったんです。 キャンパスのブリーチシャンブレー。先日訪れた札幌のヴィンテージショップ「ハイポジション」で3万円台で購入したという。 澤田 たしかにブリーチっぽい。 栗原 でもよく見てみるとパーツごとにブリーチによる色の濃淡が異なっているんです。 澤田 なるほど、ブルーのシャンブレーシャツをブリーチしたわけではなく、生地の段階からブリーチをして、そこから縫製をしたわけですね。かなり手が込んでいますね。 栗原 ダブル襟でマチはないですが、形自体はクラシックなワークシャンブレーであるにもかかわらず、生地がブリーチ加工っていうかなり謎なシャツで。先ほどのダブルウェアと同じく、こういうひと癖あるヴィンテージに惹かれるんですよね。ちなみに着心地も悪くないですよ。というのも、ブリーチ加工をされているためか綿100%なのにレーヨンみたいななめらかな質感になってます。 後付けブームに乗らない質実剛健なウールベンチウォーマー 栗原 通称はウールベンチウォーマーでしょうか。フード回りなんかは裏地に見られるようなラフな縫製です。10年くらい前に購入して、当時は3万8000円でした。重量感のあるウール素材でプルオーバーとなかなかに着辛いコートでして、こういった古い年代のウールジャケットだと日本では鳩目のスポーツジャケットなんかの方が着やすくて人気があるイメージです。 澤田 そうですね。これは、使用されているタロンのジッパーデザインからすると、40年代前半とかですかね。 ウールベンチウォーマー。後付けのフードやジップに加え、2つのパッチポケットも目をひく。ウールのヴィンテージ衣類は、日本市場よりも、アメリカのほうが評価は高いそう。 栗原 そうだと思います。パッチポケットもついていますし。主にカレッジスポーツ等でベンチウォーマーとして使用されていたアイテムで、こちらも恐らくそういう用途で使用されていたものではないかと。 澤田 刺繍で名前も入っているから、おそらくそうですね。学校名が個人名かはちょっとわかりませんが。「hotchkiss(ホッチキス)」……。 栗原 チーム名だとすれば弱そうですね(笑)。あとはボディーが形成された後にフードが上から張り付けて縫われている、広義の意味での後付けパーカというのも特徴です。同年代だとLLビーンの後付けスウェットパーカなんかでも、これと同じようにフードの背面が首下まで伸びて付けられている仕様のものがありますね。澤田さんにお聞きしたかったのですが、これをいま「フェイクアルファ」さんで値段をつけるなら、いくらぐらいになりますか? 澤田 どうですかね。ミリタリーものなら確実に10万円以上はつけるとは思いますけど。 栗原 個人的に、デザインとかはすごく好きなんですけど、重いし着脱ぎし辛いしで着る機会は滅多にないんですよね(笑)。 市場価値が急上昇したG-1。栗原的、最近売らなくて良かったアイテム第1位 栗原 2018年ぐらいに、テキサスで開催されていたヴィンテージショーで購入しました。若い子たちが中心のイベントだったのでTシャツなどがメインで、その頃はほとんどのアメリカ人がいわゆるトゥルーヴィンテージをまだ買っていない状況で。そんな中にこれが混ざっていました。 U.S.エアフォース タイプ G-1 ラインクルーマンジャケット。イエロー×ブラックの鮮やかなコンビに加え、ノーカラーなので合わせやすい。本来はMA-1など、フライトジャケットの上から羽織るものなので、サイズ感もゆったり。 澤田 G-1はいまかなり人気ですよね。ちなみにいくらで出ていたんですか? 栗原 50ドルだったんです。 澤田 それは安いですね。 栗原 当時の市場相場が10万円くらいで、いまでは50万円以上というのも異常ですが(汗)。値上がった要因としては、昨年に海外の某オークションで超高額で落札されたのと、昨今色んなブランドでサンプリングされて知名度が上がったことでしょうか。以前はちょいちょい着ていましたが、ポケットが袖にしかないのが不便なのと、流行りもの感が強すぎて最近はあまり着ていません。 澤田 これでコンディションはどんなレベルですか? 栗原 中ぐらいですかね。このジャケットの用途が滑走路とかで誘導する人が着るためのものなので、酷使はされていないはずですが、もとの縫製が弱いんだと思います。ナイロン生地に関してもほかのフライトジャケットに比べると退色しやすいです。僕の中では数少ない、“売らなくてよかったな”というアイテムです。大概のものは売って後悔しているので(笑)。 謎多きN-1ジャケット。真相は生地の裏側にあり N-1をベースにカスタムされたジャットです。10年ほど前に、アーミーネイビーストアの倉庫で見つけました。全部で10枚見つけたんですが、2枚だけこのN-1ベースのもので、残りはすべてA-2をベースにカスタムされたものでした。これ、よく見ると通常のボディの上からコットンサテンの生地を貼ってあって、しかも内側部分には蜂のフロッキープリントをほどこしてあるという。なぜ上から生地をカバーしているのかも本当に謎で。 シービーズN-1ジャケット。名前の由来は、もともと「Construction Battalion(建設隊)」から「C」と「B」をとって、さらに「C」=「Sea(海)」、「B」=「Bee(蜂)」という語呂合わせからシービーズになったとされている。 澤田 あ、本当ですね。蜂がそこらじゅうにいますね。あとスペックは読めなくなっていますが、おそらく50年代ものですね。 栗原 そうなんです。前述のようにある程度まとまった数で出てきたので、恐らくは個人ではなく、軍でカスタムしたものではないかと思います。「(US)ネイビー」で「蜂」なので、「シービーズ(Seabees)」のものなのかなと。 澤田 あー、「シービーズ」。建設工兵隊ですね。戦場に基地を建築したり道路を整えたりする。でも、プリントを施すなら表側にしそうなものですよね。 栗原 そうですよね。そういう意味では相当シャレてはいるんですけど。でもこれ、ただでさえ硬いN-1の生地の上から、もう一枚生地を重ね合わせているので、ボタンを閉めたらがちがちになって二度ととれないんじゃないかな(笑)。 澤田一誠 大阪府出身。1996年に「フェイクアルファ」に入社。同店は、1940~50年代のヴィンテージの品揃えでは他の追随を許さない原宿の名店だ。テレビ東京系『開運! なんでも鑑定団』では鑑定士も務める。 栗原道彦 千葉県出身。日本有数の古着バイヤー。1年の約1/3は渡米。栗原氏がピックした珠玉のアイテムは富ヶ谷「ミスタークリーン」で購入可能。安いきれいかっこいい古着しかない、古着ラバー悶絶の店。
写真・箱島崇史 文・オオサワ系 編集・高杉賢太郎(GQ)
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