【狂気の決断】ウクライナ侵攻最大の要因 プーチンが考える「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」とは
開戦から2年以上が経過したウクライナ戦争。この戦争の趨勢を見極めるには、ロシア・ウクライナ双方の国民の「意思」を、注意深く見定める必要があります。 2024年3月の大統領選で、得票率87%と「圧勝」したプーチン大統領。だが彼への支持率は、どこまで信用できる数字なのか? ロシア人の生の声と、プーチン氏の人生を追い、ロシアにおけるプーチン支持の実像に迫る。 *本記事は黒川信雄氏の著書『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。 連載第1回はこちらから プーチン氏がウクライナへの全面侵攻に踏み切った背景には、ウクライナ人とロシア人は民族として同じルーツを持ち、ロシアはそのウクライナを統治する権限を持つという、プーチン氏の極めて独善的な思想が背景にある。 プーチン氏がいつごろからそのような考えに固執し始めたのかは定かではない。しかしそのような考えを、絶対的な権力を持つ一国の最高指導者が抱き、さらにその決定を誰も食い止めることができない環境があることが、今回の戦争が引き起こされた要因であることは間違いない。 そのようなプーチン氏の考えを明確に示す、本人による論文が存在する。侵攻の約7カ月前の2021年7月に公表された、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」と題された論文だ。 今回の侵攻の本質が、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大への懸念でも、西側に対する反撃でもなく、プーチン氏がそもそもウクライナという国を正当な主権国家として認めておらず、その地をロシアが支配することが正しいとする歴史観を抱いていたことにあるということを、この論文は物語っている。 プーチン氏はこう書き出している。 「ロシアとウクライナの関係を問われたとき、私はこう答えている。それは、ロシア人とウクライナ人は一体的な存在だということだ。この言葉は、決して短期間で考えられた結果でもなく、現在の政治的コンテクストから生まれたものでもない。これは、私があらゆる場面で述べてきたことであり、強く信じるものだ」 「まず、こう強調したい。近年、ロシアとウクライナの間に生まれた壁というものは、この本質的に同じ歴史、精神空間を分け隔てる壁というものは、私の気持ちにおいては甚大な、共通の失敗であり、悲劇だ」 「これは、異なる時間軸においてなされた、われわれの失敗の結果だといえる。と同時に、これはわれわれの団結を乱そうとする、外部の力による企みがもたらしたものでもある」 プーチン氏は何を言おうとしているのか。それは、ロシアとウクライナは、本来は一体のものであるが、ソ連時代などにおける失政、さらには、ロシアの弱体化を目指す外部の要因が、ロシア・ウクライナの分断をもたらしたと主張している。 プーチン氏はここから、自身の歴史観を解説しつつ、現在のロシア、ウクライナがふたつの国に分かれている状況を〝修正〟する必要があるという考えを披露している。