「多額の未払い金があります」と突然通知、おひとりさま高齢者だった“疎遠なおじ・おば”からの相続リスクとは
■ 高い未婚率の団塊ジュニアにどう対応していくか ちなみに、相続放棄の件数は2022年に26万497件に上り、過去最高を記録している。2012年は17万7847件だったので、10年間で1.5倍近く増えた格好だ。 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が4月に発表した日本の世帯数の将来推計によると、65歳以上の高齢者世帯に占める一人暮らしの割合は急速に拡大しており、2050年には男性26.1%、女性29.3%に達する見通しだ。そのうち、男性の約6割、女性の約3割を未婚者が占める。 特に懸念されるのが、人口ピラミッドのボリュームゾーンである団塊ジュニア(1971~1974年生まれ)の未婚率が高いことだという。2049年には、その団塊ジュニアが後期高齢者(75歳以上)に移行する。 年々増え続ける頼れる親族がいない高齢者に向け、生活や相続のサポートを行う体制整備が急がれる。 ■ 終活トラブルで国民生活センターに相談も しかし、現状、高齢者の日常生活の支援、医療施設入居の身元保証、死後の事務手続きなどサポートサービスを提供する業者は玉石混交だ。 国民生活センターにはこれらの事業者に対し、2023年だけで「高額な委託金を求められた」など300件を超える苦情や相談が寄せられたという。同年、総務省が民間事業者204社を対象に実施した調査では、契約時に費用などの重要事項を説明する書類を作成していなかった業者が8割近くに上った。 こうした状況を踏まえ、自治体の中には事業者の質を担保しようという動きも出てきている。静岡市では今年から認証制度(終活支援優良事業者認証事業)を導入した。
■ NPO(非営利活動)法人に籍を置く「終活のプロ」も 「組織運営」「契約の締結・履行」「サービスの管理」という3つの項目ごとに基準を設け、全ての基準を満たしていれば、市が「優良事業者」として認証するというものだ。 同市内に本店や支店、営業所などを置き、1年以上サービスを提供している事業者を対象に、事業者の申請を受けて市が聞き取り調査などを行う。認証期間は3年だが、期間中は毎年、活動状況報告書の提出が求められる。 静岡市のような取り組みが広がっていけば、身寄りのない高齢者は安心してサポートサービスを使うことができそうだ。 一方で、“疎遠なおじ・おば”からの相続があると分かっているなら、相続される側もする側も生きているうちに距離を縮める努力も必要だろう。 以前、おひとりさまの終活企画で取材した70代の女性から、次のような話を聞かされたことがある。 女性は親の相続でもめて姉と絶縁したが、姉の死後、時間をかけてその子供たちと関係修復を図っていた。その時点で、賀状や季節の届け物くらいのやり取りはあった。 死後の手続きを依頼し承諾を得た上で、なるべく迷惑をかけないようプロの手を借りて終活を進めている。「手続きの手間賃程度にしかならないかもしれないが、甥と姪にはできる限り多くの金銭を残すつもり」だという。 女性と甥・姪の間を取り持ったのは、NPO(非営利活動)法人に籍を置く終活のプロだと聞いた。“疎遠なおじ・おば”からの相続問題を減らすには、行政だけでなく、こうした民間の力にも期待したいところだ。
森田 聡子