「5秒ルール」で言い争いを回避、実験6000回で実証された口論回避策
パートナーとのちょっとした行き違いが、気づけば手に負えない言い争いに発展してしまっていたという経験はないだろうか。たとえば家事を1つ片づけ忘れていたとか意見が食い違ったとか、最初はそんな些細なことだったのに、売り言葉に買い言葉で口論がヒートアップし、ふと我に返ったときには収拾のつかない大げんかと化してしまうことがある。 残念ながら、人間関係においてこれは珍しい話ではない。ささやかなすれ違いが雪だるま式に大きくなって、いつのまにか本格的な口論になるのは、多くのカップルにとって避けられない事態にも思える。小さな誤解は、緊張感と防衛心の高まりに煽られて、より大きな衝突へとたやすく発展する。だが、このありふれたパターンを阻止できるシンプルなテクニックが心理学の最新研究で明らかになった。しかも、必要なのはたった5秒間だ。 ■「5秒ルール」の発見 2024年8月にオープンアクセス学術誌Communications Psychologyに掲載された研究論文で、主任研究者のアンナ・マッカリーと指導教官のロバート・メイおよびデービッド・ドナルドソンは、カップルの口論をエスカレートさせる力学を探求し、そうした事態を防ぐために何ができるかを模索した。研究チームは、倫理指針に基づいた攻撃性の研究手法を用いて6000回を超える実験を行った。 実験の仕組みは単純で、各カップルがヘッドホンを装着して対面し、早押しゲームで30回対戦するというもの。勝った方には、負けた方のヘッドホンに「耳障りな騒音」を好きな音量で流す権利が与えられる。研究チームの説明によれば、この方法なら倫理的に管理された環境下で、実害をもたらすことなくカップルに攻撃的な行動を起こさせることができる。 実験では、勝者が騒音を流せるタイミングをコントロールし、ゲームに勝った直後、5秒後、10秒後、15秒後にそれぞれ設定して、相手に対する攻撃性を測定した。 結果は驚くべきものだった。カップルの攻撃的な行動(この実験では、騒音をどのくらい大きな音量で流すか)は、パートナー双方の感情状態に強く影響されることが明らかになったのだ。双方が興奮状態にある場合、攻撃性は86%も増加した。ゲームが進むにつれて、カップルは互いの攻撃性のレベルを合わせる傾向があることもわかった。片方が大きな音を鳴らせば鳴らすほど、相手もより大きな音で応じるようになった。 注目に値する発見は、音を鳴らす前にそれぞれ5秒、10秒、15秒の待機時間が挟まった場合には、攻撃的な行動が著しく減少した点だ。しかも何より興味深いことに、この研究では待機時間の長さが変わっても行動に有意な差は認められなかった。つまり、5秒間と15秒間の待機時間に同様の効果がみられたのだ。 この事実は、わずか5秒という短い時間でも、言い返す前に「間」を挟むことでカップル双方が冷静になり、思考がより明晰になり、口論がエスカレートするのを防ぐのに十分な効果が得られる可能性を示唆している。