議論進む103万円の壁見直し、はたしていつ決着するの?
国民民主党が主導権を握っているように見える「103万円の壁を178万円に引き上げる」問題。いつになったら決着するのでしょうか? そんな疑問を持たれている読者が多いのではないかと思い、今回のテーマにたどり着きました。実は国民民主党と自民党・公明党が103万円の壁の見直しを即座に決められないことには理由があります。それが税制改正の手順です。 ■各省庁からの税制改正に関する要望の提出 意外に思うかもしれませんが、税制改正は国民の声から始まることはありません。国の中長期的な税制方針に基づき、かつ各年度に求められる(と省庁が考える)適切な税制になるよう、毎年国家予算の作成と同時並行で税制改正の要望が各省庁から、とりまとめ役の財務省宛に提出されます。とりまとめて公表されるのは、毎年8月末時点となっているようです。もう過ぎていますね。 今回の103万円の壁見直しのように、政党が発案した税制改正を国民が熱烈に希望し、各種メディアで取り上げられる状況は稀です。特に今までは基本路線が増税でしたから、税制改正をニュースとして大きく取り上げられないようにと思っていたはずです。ところが衆議院選挙を経て、103万円の壁を見直して、178万円の壁にするという話が選挙で躍進した国民民主党により進められています。今までは、恒久的な制度改正を伴う減税ではなくスポットの給付金で対応しており、その場しのぎの感じがしていました。 今回は、国民の圧倒的な支持を得ているはずの「減税」ですが、一向に決定したという話が出てきません。国民民主党が嘘をついたのでしょうか? それとも自民党がのらりくらりと議論をはぐらかしているのでしょうか? ■与党税制調査会による話し合い 財務省が取りまとめた省庁からの税制改正の要望が、与党に設置された税制調査会という会議の中で税制改正に向けて議論されます。与党の税制調査会で議論された内容をもとに税制改正大綱がまとめられます。本稿掲載時には、まさに税制調査会において103万円の壁の見直しについて議論されていることでしょう。 また、総理大臣や国務大臣により話し合われ、毎年12月下旬に翌年度の税制改正大綱として発表されます。税制改正大綱は今後の税制改正の素案ですから、新しい制度改正が含まれていないか、時限措置となっていた税制は終了するのか延長するのか、といった点が話題になります。筆者も含め、金融や税務関係者には非常に重要な内容とされます。 ■改正法案の国会提出 年末に発表された税制改正大綱は、年末年始に世間で議論されますが、大綱の内容に変化はありません。1月から2月にかけて国会に提出され、審議されます。現在のように自公が与党として野党より少数である場合には、スムーズに可決することは難しいかもしれません。そのため、増税一辺倒ではなく、国民民主党に配慮して減税についても議論がなされます。 法律改正を成立させるには衆議院(及び参議院)で可決される必要があります。現在の自公では衆議院の議席の過半数が確保できていないため、野党の意見を尊重する必要があります。もし、103万円の壁の見直しに自公が着手しなければ、野党の協力を得ることができず、法改正を審議可決することができません。通常は、衆議院で可決されたのち、参議院で可決することで、法律が改正されます。 ■改正法のスタート 改正法案が審議可決されると、改正法案が成立した日、交付される日、施行される日が発表されます。 成立、交付から施行まで一定の期間を設けられる場合もありますし、直ちに施行される場合もあります。103万円の壁の見直しは法改正が決まれば、当該年から施行されると考えられます。この辺りは、すぐに減税をスタートさせたくない省庁や与党と直ちに施行させたい国民民主党の綱引きになることでしょう。 残念ながら、2024年の年末調整や確定申告には間に合いそうにありません。2024年から減税になってくれないかと考える国民がいる一方で、税改正には準備も必要です。選挙で一定の信任を得たから、すぐに法律が変わるわけではありません。このような議論や国会審議を経て、ようやく税制改正が行われるのです。いかがでしょう。すこしニュースの見方が変わっていれば嬉しいです。なお、税制改正で沈む業界、浮かぶ業界もありますので、投資目線で税制改正に注目するのも面白いでしょう。 高橋 成壽(たかはし・なるひさ)/1978年神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、2001年にFP資格を取得。投資や保険などのキャリアを経て、2007年にFPとして独立。自身の投資経験と世界の金融ネットワークを活用し、シングルマザーから上場企業の経営者まで、1人ひとりに合わせたお金のアドバイスを提供している。有料のFP相談「 寿FPコンサルティング 」、無料のマネー相談専門家マッチング「 ライフデザインセンター 」を運営。2020年より東海大学非常勤講師として学生向け金銭教育に従事。著書に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
高橋 成壽