くどうれいんさん「日記の練習」インタビュー 日記は私を“調律”してくれるもの
2022年の春から専業作家として幅広い執筆活動に専念している、くどうれいんさん。はじめての日記本『日記の練習』(NHK出版)は、23年4月~24年3月の1年分の日記を通して、くどうさんの暮らしや思考、感情を垣間見ることができます。発売を前に増刷、さらに発売後1週間で3刷と、たくさんの読者に支持されている一冊です。10代から日記を書いてきたくどうさんにとって、日記とはどんな存在なのか。日記との向き合い方や書くことへの思いをたっぷり聞きました。 【写真】くどうれいんさんインタビューカットはこちら
「大ブログ時代」を生き抜いた末に
――くどうさんは10代のころから日記を書かれてきたそうですね。日記を始めたのは、何かきっかけや理由があったんでしょうか。 個人的な理由などはなくて、私が中学生のときって世の中が「大ブログ時代」だったんですよ。芸能人はもちろん、誰もがブログをやっていて、ブログ本も売られていました。そのころには書くことがもう好きになっていたので、特に意気込むこともなく、素直に私も書いてみたいと思ったんです。 そんなふうに時代の流れに乗って日記ブログを始めたら、徐々にみんなが辞めていって生き残ってしまったという……。続けようという強い意志があったというよりは、ブログに日記を書く生活を送っているうちに、習慣として生活の中に組み込まれてしまった感じがします。いまは日記用のGoogleドキュメントに適宜書いていて、ブログとして公開しているのは公式ホームページにたまにアップするものくらいです。 ――日記をつづる暮らしに憧れて毎年のように年始めに書き始めるのですが続かなくて、虫食い状態の日記帳がずっとあります。でも、『日記の練習』の冒頭を読んで、空白部分も含めて私の「日記」なんだって、すごく励まされました。 「日記を書きたいと思うきもちを持ち続けている」それだけでもう、ほとんどあなたの日記は上出来だ。きょうも書きたかったけれど書けませんでした、という一文が透明な文字であなたの肋骨の裏に浮かぶようになれば、それはもう日記なのだ。 くどうれいん『日記の練習』(NHK出版)より 15年近く日記を書いていても、今回の本の「日記の練習 10月」みたいに、全然書けないときもあるんです。しかも、日記には日付があるから、書いている部分は毎日書いているかのように見えますけど、実際は翌朝に書いたり数日分をためて一気に書いたり。日記って、一日の終わりにその日を振り返ってしたためるイメージがありますけど、全然その必要はないんですよ。 ――自分のタイミングでいいんですね。 そうそう。ただ、やっぱり忘れちゃうこともあるから、「これは日記だ!」って思ったら、その場でメモすることもあります。 ――「これは日記だ!」という瞬間って? 私の場合、基本的には他者が何かしら関わっていることが多くて、日常に潜むエラーみたいなものに遭遇したとき、ですかね。例えば、エスカレーターに乗っていたら、前にきれいなお姉さんがディオールの紙袋を持って立っていて、ふと紙袋の中を見るとマキタのドライバーが入っていたこととか。借りたのか、返してもらったのか、買ったのか、真相はわからないけど、ディオールの紙袋にマキタのドライバーが入っているという状況にぐっときてしまうんです。 ――ちぐはぐなところに、おかしみがありますね。 あと、当人たちにとっては当たり前でも周りから見たら「なんで⁉️」っていうことにもすごく弱いです。とある出版社さんに行ったときに、「コピー用紙とってもらえる?」「どの大きさですか?」「板のり!」「わかりました」という会話が聞こえてきて、「え、わかるんだ!」って思ったことがありました。どうやらA4サイズだったみたいなんですけどね。