五色に輝く御釜を愛で、蔵王連峰をめぐる|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.5
刈田岳山頂より、かつての修験道をゆく
さて、山を歩こう。今回のスタート地点は、蔵王エコーラインから続く蔵王ハイラインの終点、蔵王刈田岳山頂駐車場。すでにここで、標高1、720m。最高標高地点の熊野岳まで高度差約120mという「水平志向」の旅にありがたいスポットだ。 駐車場の目の前に建つレストハウスには、レストランや売店、トイレがあり、いつも多くの観光客や登山者でにぎわっている。登山情報コーナーもあるので、天候や火山に関する最新情報をここでチェックしてスタートする。 レストハウスを出たら、まずは標高1、758mの刈田岳(かっただけ)へ。緩やかなスロープを登り、10分ほど歩けば刈田嶺神社奥宮が建つ山頂だ。ウォーミングアップにちょうどいい。 刈田岳山頂からは、これから歩くルートの前半部分を一望できる。約3万年前の火山活動により形成された五色岳の蔵王カルデラ、神秘的な水をたたえる御釜、その左側には御釜を見下ろすように馬の背が横たわる。 目の前に広がる荘厳な景観、見上げれば心地よい青空が広がっている。晴天無風、異常なし。清涼な気に満ちた奥宮に一礼し、かつての修験道を刈田岳山頂から歩き始める。 ※蔵王エコーライン:夜間(17時~翌朝8時)通行止め(4月下旬開通後~5月上旬、10月中旬~11月上旬冬季閉鎖)。冬季(11月上旬~翌年4月下旬)通行止め。
神秘的な御釜を眺め、熊野岳、地蔵山へ
刈田岳山頂からの下り、右手を見下ろすと、御釜がみるみるうちに大きくなってくる。熊野岳へと続く広々とした鞍部、馬の背を少し進むと、御釜を見下ろす断崖沿いに敷かれた遊歩道への分岐に出る。そのまま真っ直ぐ進むのが最短ルートだが、分岐を右に曲がり、御釜へと近づく。 眺める角度の違いや陽光の加減、季節によって、御釜の水はいくつもの不思議な彩を魅せる。水面だけでなく、周囲の火口壁も微妙に表情を変えていく。五色岳とともに、御釜が五色湖とも呼ばれるゆえんがここにある。 御釜と蔵王カルデラの移ろう景観を眺めながら、馬の背をさらに進む。少しずつ道が広がり、鞍部から山の斜面へと入っていく。稜線上に建つ熊野岳避難小屋を右前方に見上げつつ、分岐を左に進めば、蔵王連峰最高地点にほどなく到達する。標高1、841m、熊野岳山頂だ。 見晴らしのよい山頂には熊野神社(蔵王山神社)が建ち、凛とした気に満ちている。小さな境内で手を合わせ、ここで2回目の参拝。熊野神社は本宮となる瀧山(りゅうざん)の離宮で、蔵王温泉にある酢川温泉神社(口ノ宮)とともに三社一宮となる神社。時間が許せば、下山後の温泉とともに三社参りをするのもいいだろう。 さらに進み、熊野岳山頂からガレガレの急坂を慎重に下り、鞍部に出る。途上、ワサ小屋跡で足が止まる。ワサ小屋は、かつて「おワサ」さんという老婆が小屋番をしていた小屋。さらなる昔、熊野神社参拝最後の登り口となるこの地で、土地を司る神官が参拝者に水を提供していたという。そんな場所を守る通称「姥神ヤマンバ」様の石像がここに建つ。現在の石像は、発見時に首のなかった「ヤマンバ」様に改めて頭と顔を再生し開眼したものだそうだ。 そんなワサ小屋跡の「姥神ヤマンバ」様にも一礼し、再び歩き始める。鞍部の登り返しはけっこうな急登だが、距離は短い。ここを登り、小ピークをひとつ越えれば、標高1、736mの地蔵山山頂だ。刈田岳、熊野岳と同様、さえぎるものは何もない。南北40kmにも及ぶ山形盆地や月山をはじめとした出羽三山の山並みが眼前を埋め尽くす。 地蔵山山頂からは急な石段を一気に下り、蔵王地蔵尊へ。大きなお地蔵様は、1775(安永4)年に建てられたもの。当時の道は険しく遭難が絶えなかったが、お地蔵様が祀られた以後、遭難者が減ったという。そんなありがたいお地蔵様にプチ巡礼最後のお参りをして、往路終了。 お地蔵様の周りにあるテーブルでランチをいただき、スタート地点へと折り返す。復路は、地藏山、熊野岳のピークを踏まずに巻き道を歩く。斜面をトラバースするため急登がない。木道と石畳の登山道を散策気分で進み、ワサ小屋跡を経て、熊野岳稜線上の避難小屋へ。 避難小屋から再び御釜を横目に馬の背をのんびり歩けば、まもなくレストハウスに到着する。往復3~4時間程度。ちなみに蔵王地蔵尊から蔵王ロープウェイを利用すれば、一気に蔵王温泉に降りることも可能だ。