スロヴァキアのフィツォ首相、銃撃される 生命の危機は脱したと副首相
中欧スロヴァキアのロベルト・フィツォ首相(59)が15日、首都ブラチスラヴァから北東の小さな町で銃撃され、病院に運ばれた。一時重体とされたが、危機的な状態は脱したと副首相は説明した。 トマシュ・タラバ副首相は15日、フィツォ氏の手術は「うまく」いったようだと、BBC番組「ニューズアワー」で述べた。そして、「最終的には助かると思う」、「現時点では命に危険がある状態ではない」とした。 これより先にロベルト・カリナク国防相は、フィツォ氏が数時間にわたって手術を受け、「命がけで闘っている」と述べていた。 銃撃は午後2時半ごろ、首都から約180キロ離れたハンドロヴァで起きた。フィツォ氏は文化コミュニティーセンターでの会議を終え、屋外で人々にあいさつをしていた。 襲撃犯とされる人物は現場で拘束された。当局は身元を明らかにしていない。 タラバ氏はBBC番組で、首相は「非常に近くから」撃たれ、「1発は腹部を貫通し、2発目が関節を直撃した」と述べた。 マトゥス・スタジ・エストク内相は同日の記者会見で、フィツォ氏は腹部を撃たれたと説明。「初期情報では、明らかに政治的な動機があった様子だ」と付け加えた。 事件発生当時の映像では、銃を手にした男性がフィツォ氏に向かって5回発砲し、直後にボディーガードに取り押さえられた。警備担当たちが、フィツォ氏を車に乗せた。 フィツォ氏はその後、ヘリコプターで近くの病院に運ばれ、さらにハンドロヴァの東にあるバンスカ・ビストリツァの病院に移送された。 ■容疑者とされる動画が浮上 現地メディアは、現場で取り押さえられた容疑者について、71歳の作家で政治活動家だとする未確認情報を伝えている。また、容疑者が映っているとされる動画を紹介している。 その動画では、男性が政府の政策や国営メディアへの対応に対する反対を表明している。BBCは、この男性が容疑者なのか、あるいは動画がどのような状況で撮影されたのかについて、確認できていない。 ■政治家らが「憎悪」を非難 スロヴァキアの政治家は、この銃撃事件を「民主主義への攻撃」だと非難している。 近く退任するズザナ・チャプトヴァ大統領は、「非常に深刻なことが起きたが、私たちはそれをまだ実感すらできていない」、「私は憎悪に満ちた言葉を社会で目にする。それが、憎悪に満ちた行為につながる」と述べた。 カリナク国防相とエストク内相は、ソーシャルメディアでのヘイトスピーチ(憎悪表現)増加が今回の銃撃事件の背景にあると非難。「憎しみに憎しみで応じる」ことのないよう、国民に訴えかけた。 エストク氏は記者会見で、今回の事件につながった空気をメディアが醸成したと非難。「あなたたちの多くが、この憎しみの種をまいていた」と述べた。 フィツォ氏は、昨年10月の総選挙を経て、ポピュリスト(大衆主義)政党とナショナリスト政党の連合を率いて首相に復帰した。 就任から数カ月で、政治的に賛否が大きく割れる政策を進めた。今年1月にはウクライナへの軍事支援を停止。先月は公共放送RTVSの廃止計画成立を強行した。 公共放送の改革案をめぐってはここ数週間、数千人規模の抗議デモが起きていた。15日にも野党主導のデモが予定されていたが、銃撃事件のニュースが流れると中止になった。 事件発生時、議会は開会中だった。現地メディアによると、与党議員の1人が野党議員らに向かい、あなたたちが襲撃をあおったと大声で非難した。 次期大統領でフィツォ氏の政治的盟友のペテル・ペレグリニ氏は、銃撃事件はとんでもないことだと批判し、このところの政治的分裂が原因になっていると述べた。 ペレグリニ氏はまた、今回の事件を「スロヴァキアの民主主義に対する前例のない脅威」だと表現。国民はすべてにおいて意見が一致する必要はないが、異論は民主的かつ合法的に表明すべきだとした。 世界の指導者らも今回の銃撃を非難している。アメリカのジョー・バイデン大統領は「恐ろしい暴力行為」だと強く批判。現地のアメリカ大使館がスロヴァキア政府と「緊密な連絡」を取っており、「支援の用意がある」と述べた。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も「このおぞましい犯罪を正当化することはできない」と非難。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は「暴力やこのような攻撃は絶対に正当化できない」と述べた。 (英語記事 Slovak PM Robert Fico fights for life after assassination attempt)
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