幼少期に最適なスポーツ体験「バルシューレ」とは? 一競技特化では身につかない“基礎づくり”の重要性
日本を代表するバルシューレ実践の地、SLDIが目指すもの
辻本氏はバルシューレを「多くのスポーツの基礎」と表現する。「その上で専門競技へと分かれていく形がスポーツ教育のベスト」だと語る。バルシューレは「幼少期の詰め込み教育」からの脱却でもあるのだ。辻本氏はこのように語る。 「これまでバルシューレを実践してきた中で、強く感じることは、子どもたちは早期にスポーツを絞って長い期間トレーニングをしなくても、きちんと成長するということです。バルシュ-レを提供すれば、子どもたちは適切に成長し、生涯スポーツを楽しむ心と体ができてくることを日々実感しています」 さらに、ボール運動を始めると、多様性と創造性が身についていくという。投げる・蹴る・打つなど、多くの競技の基礎を身につける中で、子どもたちが自分の直感を信じてプレーできるようになる。その閃きのようなものこそ、すべてのスポーツに大切な要素だ。 このバルシューレを北海道に根づかせた最大の功労者は、北海道教育大学岩見沢校の奥田知靖教授だ。辻本氏は奥田教授のもとで勉強を重ねてきた。また、同大学のキャンパス長である山本理人教授は、各地でトークセッション等を積極的に展開。「どのスポーツをやるかという意思を子ども自身が決める、自発的で健全な教育を」と語りかけてきた。 その上で同大学では、豊かな運動体験をつくる「CAPS-Child」を掲げる。CAPSとは、「Creative」(創造力)、「Active」(活発さ)、「Play orient」(自らの意志で夢中になる)、「Skillful」(巧みな身のこなし)の頭文字。このCAPS-Childプログラムの中核に置かれているのがバルシューレだ。 SLDIは、CAPS-Childの理念をしっかりと受け取る形で辻本氏が指揮を執る総合型地域スポーツクラブということになる。
バルシューレを中核に置いた科学的なスポーツ教育
バルシューレの効果として、実際にどんなことが起きているのか。 辻本氏によると、「例えば、現在中学3年生の男子が良い例です。幼少期はバルシューレを体験、小学校になると、バルシューレ+競技スポーツ(サッカーとバスケットボール)を経験しました」 ここからが特徴的だ。 「しかし、弊社では競技スポーツで全国大会を目指すことをしません。小学校ではあまり多くの戦術を教えません。楽しく運動能力を高め、戦術に必要な直観力を鍛えることを目的とします」と語る。 「彼は中学校に入って部活に入りました。バスケットボール部です。ここでようやくバスケに特化する形です。当然、中学1年生の時には、小学生の時からガチガチにその競技を教え込まれた少年団の子を相手に、苦戦をします。ですが、発育・発達の時期に、適切に科学の力を取り入れて多様性と創造性を身につけているその子は、すぐに小学校時代にガチガチの技術指導をされていた少年団の子に追いつき、今では同等の活躍をしています」 そしてこう続けた。 「現代にはどう指導すればいいか科学的に伝えられるものが少ない。多くの指導者がテキストを見様見真似という状況です。バルシューレでは、すべてのプログラムにどんな能力が身につくかが決められている。子どもたちのレベルに合わせて環境を設定できる、最善のプログラムだと感じます」 バルシューレのキーワードは、「自由な空間で」「自主性を守る指導」なのだ。 では、この現象はSLDIの内部だけで繁栄しているものなのか。近隣のスポーツ団体にはバルシューレという競技はどう映っているのか。 同じ空知管内で活動する、卓球クラブ&スクール「リバイバル」。地元の中・高生から圧倒的な支持を受ける人気のクラブだ。辻本氏と親交が深いリバイバルの墓田監督は、「指導者の圧がないスポーツの場を」という理念を持つ。SLDIで卓球の指導を行った際の「バルシューレを体験した子どもたち」の印象を次のように語ってくれた。 「日頃からバルシューレを経験した子どもたちは、本当にのびのびしています。自主性が尊重され、自発的に体が動く。私のクラブは中学生での燃え尽き症候群防止を重視します。高体連で完成期を迎えるように育成する。SLDIと共通している部分があります。バルシューレは、私が教員免許を取得した時にはまだ日本では珍しかった競技ですが、子どもたちの意欲向上の効果を感じます。文献の通り、科学の力で理想的な成長過程を描けることがわかる。これから岩見沢市のスポーツ教育全般もこうありたいですね」 今後は辻本氏とタッグを組み、教員ライセンスを取得しているコーチ陣で「バルシューレから卓球へ」という最先端の幼少期・卓球部門の設立も視野に入れているという。 バルシューレを中核に置いた科学的なスポーツ教育は、確実に浸透しつつある。