482億円相当が不正流出したDMMビットコインは氷山の一角、なぜ暗号資産取引所で流出事件が相次ぐのか?
■ 暗号資産の流出事件が止まらない根本的な要因 FTXは業界最大手、さらに絶頂期での経営破綻というドラマチックな展開があったために世間からの注目を浴びただけで、実際には多くの暗号資産取引所で、深刻なガバナンスの欠如が見られると、専門家たちは指摘している。 暗号資産取引所の多くは急成長するスタートアップ企業で、リスク管理やガバナンスの仕組みも経験も不足していることが多い。しかも、ガバナンスの枠組みが明確でないため、少数の個人が牽制されることなく意思決定を行うことが可能となり(サム・バンクマン=フリードがFTXの顧客資金をアラメダ・リサーチに移していたように)、不正リスクが増大する。 その結果、組織の内外で行われる不正行為に対する脆弱性が高まるというわけだ。 また、暗号資産市場が急成長したことで、投機的な取引や犯罪的な行為を行おうとする人々を引き寄せていることも、ガバナンスにとっては不利な状況となっている。 現在の暗号資産には価格変動の幅が大きいものがあり、市場操作を成功させやすい。中には自ら市場操作を手がけている取引所が存在することも、『1兆円を盗んだ男』では指摘されている。 にもかかわらず、現在の暗号資産市場には国による規制が欠如しており、それを管理する法的枠組みは十分とは言えない。暗号資産に関する規制は国ごとに大きく異なり、多くの国では適切な法的枠組みが存在しない。 包括的な規制の欠如は、不正行為を働こうとする者が抜け穴を利用し、責任を逃れることを容易にする。その結果、犯罪者たちが制裁を恐れずに活動することが可能となり、暗号資産取引所の脆弱性をさらに増す結果となっている。 従来の金融市場でも、数々の不正や不適切な行為が繰り返され、その度に規制とガバナンスの強化が進められてきた。 たとえば、2008年のリーマン・ブラザーズの破綻(米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーがサブプライム住宅ローンの不良債権を大量に抱えて破綻した事件)では、世界的な金融危機、いわゆる「リーマン・ショック」が引き起こされ、その結果として各国で金融機関の規制が強化された。 世界で最初の証券取引所は、1602年にオランダのアムステルダムに設置されたものと言われている。であれば、たった10年かそこらの歴史しかない暗号資産取引において、不正や破綻が相次ぐのも仕方ないと言えるだろう(だからといって放置してよいというわけではないが)。 技術的な脆弱性と、企業側のガバナンスの欠如、そしてそれらを監督する法規制の遅れ。これら3つの要因が組み合わさることで、暗号資産取引所をめぐる事件が生まれていると考えられる。 したがってこの問題に対処するためには、技術的な解決策の開発を急ぐだけでなく、企業はガバナンスとリスク管理を強化し、透明性と責任を確立する必要がある。 同時に国や規制当局の側でも、暗号資産に関する明確で包括的な規制を確立し、国際的な連携のもとに不正行為に対処しなければならない。 これら3方向からの対応が進まなければ、DMMビットコインの事件は決して、暗号資産をめぐる最後の不正流出事件にはならないだろう。 【小林 啓倫】 経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。 システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。 Twitter: @akihito Facebook: http://www.facebook.com/akihito.kobayashi
小林 啓倫