なぜ退団、移籍が決定した浦和レッズMF柏木陽介の規律違反は内部告発によって判明したのか
対照的に柏木は昨秋にも、新型コロナウイルス禍において禁止されていた家族以外の知人との会食が判明して厳重注意処分を受けていた。今シーズンから指揮を執るスペイン出身のリカルド・ロドリゲス監督は、12日に行ったオンライン形式の会見で、柏木の今後に対して厳しい考えを示している。 「杉本と柏木の違いは規律違反を繰り返したという部分です。彼への処分について、私の考えはクラブに伝えました。私個人としては、彼が今回取った振る舞いは受け入れることができません」 戸苅本部長が明かした柏木を移籍させる方針は、新たにチームを作り上げていく上でロドリゲス監督が重視する、チーム内の団結力と規律を高めていく方針とも一致している。戸苅本部長は沖縄から帰京した後に、柏木と2度話し合いの場をもった上での合意であることも明かした。 「柏木選手との話し合いをもちながら、今後どうしていくのかを一緒に決めてきました。柏木選手もいまの状況を鑑みて、別々の道を歩むことについてお互いに合意した上で進めていくとともに、監督との話し合いもクラブ内で十分に行い、監督の意見も尊重した上でこのような形になりました」 実際問題として、広島時代と合わせてJ1リーグで通算392試合に出場している柏木の今後はどうなるのか。浦和側は柏木との契約は解除せず、クラブと代理人を含めた柏木側の双方が移籍先を探していく形が取られる。現時点で移籍先のめどが立った、という情報は柏木側から入っていない。 もっとも、契約を解除しないという状況は、イコール、移籍にあたって違約金が発生することを意味する。長引く新型コロナウイルス禍で多くのJクラブが減収を余儀なくされ、今シーズンを戦う上での新体制もほぼ固まっているなかで、年俸も1億円(推定)と高額な柏木を必要とするクラブが現れるかどうか。交渉次第では期限付き移籍となることも、戸苅本部長は否定しなかった。
ましてや若手に模範となる背中を見せるべきベテランでありながら、柏木は昨秋に続いてクラブ全体が守るべき規律を破っている。加入後のリスクを考え、二の足を踏むクラブも現れかねない。移籍先探しが長期化する事態も考えられるなかで、戸苅本部長は決定まではサポートする考えも明かした。 「柏木選手がサッカーをできる環境、というのは大切なことなので、クラブとしてサポートしていくことも含めて、今後は別途、柏木選手と調整していきたい。(移籍が決まるまでは)クラブの選手ですので、(練習拠点の)大原サッカー場でトレーニングすることもあると思います」 柏木と杉本の規律違反は浦和の内部から情報が寄せられ、クラブが本人たちに確認した過程で発覚した。戸苅本部長によれば、柏木は「多少、長いキャンプだったので、ストレスを感じていたところがあった」と反省しながら理由を明かしたという。外食時、杉本と飲食店店員以外の第三者はいなかったとも報告された。 しかし、内部から一報がもたらされたという事実は、特に規律違反を繰り返す柏木に対して、苦々しい思いを抱えている人間がいた状況を象徴していると言っていい。他の選手たちには16日の会見に先駆けて、柏木に対する処遇が伝えられた。そのときの様子を戸苅本部長はこう明かしている。 「特に長く一緒にプレーしてきた選手たちには、いろいろな感情があると思っています。それでも『開幕へ向けて、切り替えてやっていこう』という話をしました」 オンライン会見では今回の規律違反に関して柏木がクラブへ寄せたコメントが、戸苅本部長が読み上げる形でメディアへ、そしてファン・サポーターへ伝えられている。 「このたびは私の軽率な行動によってファン・サポーターのみなさま、パートナー企業のみなさま、選手、クラブ、Jリーグ関係者のみなさま、そして何より緊急事態宣言下においてトレーニングキャンプの実施を受け入れてくださった沖縄のみなさまに対して、多大なるご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。 多くのサポートをいただいているなかで、トレーニングキャンプやJリーグが開催できているという自覚が足りず、このような行動に至ったことを深く反省しております。また、規律違反によって新シーズンの始動後のチームにも迷惑を掛けてしまいました。重ねてお詫び申し上げます」 Jリーグの第1登録期間(ウインドー)は、今シーズンは4月2日まで開いている。それまでに移籍先が決まらなかった場合はどうなるのか、と問われた戸苅本部長は「移籍先を進めていく、ということでお互いに話し合っているとご理解いただければ」と言及するにとどめている。 責任感と自覚を欠く行為を繰り返した末に、クラブ内で信頼を失った代償はやはり大きかった。移籍先が決まった際には謝罪を兼ねた記者会見の場を設けることも、浦和内では検討されている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)