東京にこにこちゃん『RTA・インマイ・ラヴァー』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
チラシとは観客が最初に目にする、その舞台への招待状のようなもの。小劇場から宝塚、2.5次元まで、幅広く演劇を見続けてきたフリーアナウンサーの中井美穂さんが気になるチラシを選び、それを生み出したアーティストやクリエイターへのインタビューを通じて、チラシと演劇との関係性を探ります。(ぴあアプリ・Web「中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界」より転載) 【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】東京にこにこちゃん取材より ドット絵で表現されているのは、いつかどこかで観たことのあるような、懐かしい雰囲気のゲーム世界。鮮やかなオレンジの地に、あまり耳慣れない「RTA」という単語が入ったタイトル。東京にこにこちゃんの『RTA・インマイ・ラヴァー』のチラシについて、作・演出の萩田頌豊与さんと、デザインを担当している田仲マイケルさんにお話を聞きました。 中井 田仲さんは、普段はチラシと関係ないお仕事をされているとか。 田仲 アニメーションのディレクターとか、映像のプロデューサー、ゲームのアートディレクターなんかをやっています。 中井 そんな田仲さんが、なぜ東京にこにこちゃんのチラシを手掛けることに? 田仲 もともと、頌豊与とは友達で。僕が昔つきあっていた彼女が小劇場の役者で、一緒に観に行った東京にこにこちゃんが面白くて、頌豊与と仲良くなったんです。で、ある時からチラシを作るようになりました。 中井 最初は友達から。 萩田 完全にそうです。今もですけど。 田仲 チラシを作りはじめた頃は「僕が好きに絵を描く場をくれるならタダでいいよ」と。 萩田 本当に甘えっぱなしでした。 田仲 高校が工業高校でグラフィックデザイン学科だったので、チラシを作るのは元々好きで。それに、普段の仕事では原作やクライアントの要望に合わせる必要があるけど、演劇のフライヤーはフラッシュアイデアをそのまま絵に起こすことができる。それが嬉しくて。 萩田 それこそ1公演で50人くらいしか集客できていなかった頃からチラシをお願いしています。マイケルはプロのアニメーターなので当然ながら絵がすごくうまくて、チラシに公演が見合っていない状態が続いたんですけど、ようやく駅前劇場に立てるようになって、やっと中身が追いついてきたなと思っています。 中井 いちばん最初に組んだのはどの公演ですか? 萩田 どれだっけ……。お願いするようになってから10年弱は経っていると思います。 中井 過去のチラシを見てみると、テイストはわりとバラバラですね。 田仲 そうです。僕にとっては実験場なので。 中井 チラシはどんなふうに作っていきますか? 田仲 毎回、チラシを作る段階では台本がないんです。「何ヶ月後に舞台をやりたい」と言われて、「今回は何を作るんだい?」と聞くところから始める。 萩田 マイケルには申し訳ないですが、彼にしゃべりながら物語を作っているところがあるんですよ。なんとなく「今回はこれかな」くらいの状態でマイケルと会って、彼としゃべることでより作品が具体化していく。マイケルはその話に沿って僕の考えているものをチラシという形にしてくれる。 田仲 以前のチラシ作りは、アイデアを聞いて「こういうこと?」とお品書きを出すようなイメージでしたけど、途中からはもう一緒に台本を作るような感覚です。 中井 田仲さんは萩田さんにとって、アイデアの源でもあるわけですね。 萩田 そうです。チラシは作品の顔で、その顔を作るための物語の核は、マイケルとの会話から生まれています。 田仲 「今回は明るいの? 暗いの?」「場所はどこなの?」「時代は?」と。 萩田 もはやカウンセリングですね。 田仲 とはいえ、書くのは頌豊与なので、必ず彼の言葉を待ちます。 萩田 ここで話したことをベースに物語を作り、チラシができあがったら、そのビジュアルを元にさらに物語を深めています。 中井 これまでチラシについていろんな方に伺ってきて、劇団の主宰とデザイナーさんが友達から始まったという例はありましたが、ここまでの関係性は初めてかもしれません。