東京にこにこちゃん『RTA・インマイ・ラヴァー』【中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界】
ハッピーエンドを志向する作品のチラシに「暗さ」を残す
中井 東京にこにこちゃんのチラシを作るとき、意識していることはありますか? 田仲 これは僕が勝手にやっていることですけど、どのチラシにも少しだけ闇を落とすようにしています。『ゲラゲラのゲラによろしく』(2022)はかなりわかりやすいですけど、顔を隠してしまうとか。 萩田 僕はハッピーエンドを信じて物語を書いていますが、どこかでちょっと暗いんでしょうね。どこかに死の匂いがある。それは全作品に共通していると思います。そもそも、東京にこにこちゃんは数年前まですごく暗い作風でして。人が舞台上で死ねばそれでいい、というような公演ばかりやっていたんです。もう限界だと1年間テレビ局のADとして働いてみましたけどそれも地獄で、結局演劇に戻ってきた。以降、「もう暗いものはダメだ」と思ってハッピーエンドを志向するようになったら、ようやく注目されるようになりました。 中井 方向を転換したのはいつ頃のことですか? 萩田 2018年に他団体との合同公演で短編『どっきんどっきんメモリアル』を書いたとき、「もしかしたらハッピーエンドのほうがいいかもしれない」という予感があって。2022年のそれをベースにした本公演『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』から完全にハッピーエンドに向くようになりました。 田仲 彼自身は、本当は暗い。けどハッピーエンドにあこがれている。だからみんなに「もっとハッピーな立ち居振る舞いで生きていけばいいのに」と言いたいんだろうなと僕は捉えています。 萩田 僕は心の底からディズニーが好きで。ウォルト・ディズニーの作品に潜むブラックな部分も含めて尊敬しています。でもディズニーって根底がハッピーエンドなんですよね。そこに憧れを持っているのは確かです。マイケルも同じでしょう? 田仲 そうだね。若いときは、小劇場ならではのダークな作品も観たけど、嫌だったよね。もっとハッピーでいこうという気持ちがあった。 萩田 僕自身、大学でサブカルに触れて暗いものに惹かれたけれど、よくよく考えたら結局好きなのはドラゴンボールだし、ONE PIECEだし、ディズニーじゃん、と2年前にようやく思えたんだよね。 田仲 きっと俺たち、30歳過ぎて丸くなったんだよ。とはいえ、僕は初期の頃から東京にこにこちゃんを観てきて、暗めの題材をコメディ調で描いていくという頌豊与の作風を大事にしたい。ハッピーエンドを目指すようになってからも、ただ軽いわけじゃなく、何か考えさせるようなものがある。その雰囲気はチラシに残すようにしています。