「不登校は社会的コスト」フランスの厚い支援体制 根底には「責任ある市民を育てる」という価値観
学校に「月2日以上の欠席」の対応を求めるフランス
文部科学省の2022年度調査によれば、日本の不登校児童生徒数は29万9048人と過去最多を更新した。国や各自治体ではさまざまな支援策が講じられているが、海外では不登校にどう対応しているのだろうか。例えばフランスでは、「学校からの早期退出は社会的コスト」という考え方が共有されており、学校と福祉が一体となって子どもたちを支えているという。同国を拠点に子どもの家庭福祉を研究する安發明子氏が解説する。 【画像】フランスの不登校対応の仕組みを図で見る フランスでは、国の未来や社会問題の責任は国民一人ひとりにあると考えられており、教育の目的も「責任ある市民」を育てることにあるとされている。いわば、教育は国づくりの土台であるため、不登校(※)や孤立は「国家のリスク」と捉えられている。 ※ フランスには「不登校」という言葉は存在せず「不規則問題」と表現されるが、以下、欠席が多い状況を便宜上「不登校」と表現する それゆえ、フランスでは不登校の対応は公的機関が行い、特別なサポートも公的予算によってなされる。その予算確保の社会的同意を得るため、フランス教育省はホームページに「学校からの早期退出は社会的コストである」と明記している。市民も公的サービスの費用を税金として払っているので、子どもに合った教育を提供できていなければ、それは公的機関の落ち度だと考える。 とくに「平等」については、学校が重要な役割を担う。フランス政府は、1882年より「医師の診断のない月2日以上の欠席」への対応を学校側に求めるようになった。1989年には、「平等の原則」として「どのような家庭出身の子どもでも社会的に成功できることを学校が可能にする」と打ち出している。 さらに1996年の「欠席予防の通達」により、「心理面、知能面、感情面、愛情面、社会に適合する能力、成熟」のすべての面において学校が子どもの成長を支えることが定められた。よい成長のためには「困難な状況から回復することを学校が手伝う必要がある」という認識が共有されるようになったのだ。そして1999年には「教育は子どもの基本的な権利」と再確認されている。 こうした背景から、課題の大きい学校ほど、専門職を多く雇う予算が下りる。例えば校長も、移民や低所得者層の多い地域にある優先校で20%、特別優先校で50%ほど他校より給料が高い。これは富裕層の多い地域で教員の給料がいいアメリカとは逆だ。 筆者が調査したある優先校の中学校は1学年110人(22人×5クラス)の規模で、子どもと親とのやり取りを担当する教育相談員2人、教育アシスタント10人、ケンカや恋愛関係のもつれを専門とする仲裁専門家1人、休み時間や放課後の学習を担当するスタッフ8人、そのほかソーシャルワーカー、心理師、看護師がそれぞれフルタイムで配置されていた。 中学校の教員は基本的に週15~18時間の授業だけをする契約なので、ほかのスタッフとの役割分担が明確だ。遅刻や欠席がある子どもや相談を希望する子どもがいる場合、その子どもからチューター役を指名されると教員も生活全般の相談に乗る必要があるが、それを引き受ける際には別途契約を結び追加で給料を受け取る。こうした点は、とくに手当もないまま教員の負担が増えがちな日本と大きく違うところではないだろうか。