「不登校は社会的コスト」フランスの厚い支援体制 根底には「責任ある市民を育てる」という価値観
「包括的な不登校対応」の仕組みとは?
では、フランスの小・中学校では具体的にどう不登校の対応をしているのか。パリ市では、下記の図のように包括的な対応の仕組みが構築されている。 対応の基盤となるのは、学校だ。不登校の理由は、学習面・心理面・不慮の理由(人間関係や恐喝に遭うなど)・社会的な理由(家庭環境など)の4つに分類されており、まずはその見立てに応じて学校の教員と心理士、ソーシャルワーカーなどが連携して対応していく。 中学校には教育相談員も配置されており、「休み時間にいつもの友達と遊ばなかった」といった様子が見られた場合にはすぐ面談をするなど、早期にケアできるようにしている。 継続的な支援が必要な場合、学校は主に次の2カ所を勧める。1つは、各区にある公立の心理医療センターで、児童精神科医や心理士が親子のケアとそのコーディネートを行う。もう1つは県の児童保護予算による在宅教育支援で、児童保護専門の国家資格を持つ「エデュケーター」が定期的に親子に会い子育てを支えていく。 また、教育委員会に所属する医療チームは、健康診断の際に身体面だけでなく学習面、心理面もチェックし、問題があれば解決までフォローする。その中で医療を受診しない、授業中に集中できないなど何か心配があれば、前述の在宅教育支援などが提案される。 病院も学校と連携して子どもたちを支えている。医師の診断のない月2日以上の欠席は認められていないので、学校に行けない子どもはまず医療機関を受診する。病気が見つからないけれど調子の悪い子どもや、いじめに遭って学校に行くのがつらいという子どもなど状況はさまざまだ。 病院には地域でのフォローを担当する「移動班」という多職種チームがあるが、医療ニーズのみではない子どもたちへの対応はこの移動班が担っている。 パリ市立小児病院「移動班」の責任者である小児科医は、不登校は「行動の変化」であり「症状」と捉えているそうで、「学校に行きたくなくなる背景にあるのは、周りが適した環境やケアを用意できなかったから。学校が子どものニーズに応えることができていない、子どもに合った学び方を用意できていない『学校のネグレクト』の状況が多くある」と話す。 移動班は子どもが話せる場所を見つけ、親と子どもが問題について話せるよう助け、子どもの周囲に親子を支える専門職チームをつくる。チームは心理医療センター、在宅教育支援、後述する地域の家やティーンエイジャーの家の専門職たちから成り、彼らが学校にも出入りするようになると、学校側もよりよく子どもに対応でき、環境の改善がしやすくなるという。 例えば成績の低下などを理由に始まる支援の経過を追うと、「頑張りなさい」といった声がけでは解決しなかったであろう原因が見えてくる。トラウマや、人間関係の問題、両親間の葛藤などだ。原因を特定し解決すると、子どもの調子は回復して楽しみに学校に通い、勉強に集中できるようにもなるので、フランスの包括的な支援は合理的な仕組みだと筆者は考える。