<dogS ~ 仲良き事は美しき哉 ~>#1 アイメイトの子犬時代 「2か月間の聖域」
犬は、人と共に生きることで繁栄してきた。人と犬との「絆」や「家族愛」は、間違いなく素敵だ。一方で、犬同士のコミュニケーションは、時に畏怖を感じるほど純粋なものに映る。人が安易に踏み込んではいけない聖域が、そこにあるように思えてならない。犬同士が織りなす美しき世界……カメラを手に、少しだけお邪魔した。【内村コースケ/フォトジャーナリスト】
盲導犬になる犬種は、今ではほとんどがラブラドール・レトリーバーだ。日本には11の盲導犬育成団体があるが、1957年に初の国産盲導犬『チャンピイ』を送り出した『(公財)アイメイト協会』が元祖であり、実績も抜きん出ている。
僕は2007年ごろから、撮影や取材を通じてアイメイト(=アイメイト協会出身の盲導犬)と共に歩む視覚障害者の方々や、支えるボランティアの皆さんとお付き合いをさせてもらっている。中でもアイメイト候補の子犬たちの撮影は、特別な経験だ。
アイメイト候補のラブラドール・レトリーバーは、繁殖用の母犬を預かるボランティア家庭で一度に数頭から10数頭生まれる。そして、ハムスターサイズの生まれたての赤ちゃんの時から、母犬・兄弟姉妹と犬同士水入らずでのびのびと暮らす。
もちろん、実際にはボランティアの方が文字通り不眠不休でかいがいしくトイレや食事の世話をしている。しかし、この時期はなるべく人間が「しつけ」のような手出しをしないのが鉄則だ。ゆえに、奉仕者は裏方に徹する。まずは犬同士でじゃれ合ったり寝食を共にする中で、「犬として」の基本的な社会性を学ぶことが大切だからだ。
この「犬同士の世界」は、人間で言えば幼稚園入園時くらいに当たる生後2か月まで続く。そして、次のステップからは人や人間社会との関わりを深めていくことになる。だから、この最初の2か月間は、犬、ひいては動物としての純粋性を最も顕著に見ることができる貴重な時期なのだ。僕はその「聖域」に踏み込むたびに、小さな生命にある種の畏怖すら感じる。「かわいい」とは、神々しさと同義だと思う。
■内村コースケ(うちむら・こーすけ) ミャンマー生まれ、カナダ・イギリス育ち。新聞記者・社員カメラマンを経てフリー。写真も撮れて「書ける」フォトジャーナリストとして活躍。2003年に2頭のフレンチ・ブルドッグと暮らし始めてから、犬雑誌でのフォトエッセイの連載やペット関連のフリーペーパーの編集、アイメイト(盲導犬)関連の取材・撮影など、活動の中心が「犬」になっている。【ブログ「写像的空間」】