眠りが浅いと脳はゴミ屋敷に!? 眠っている間に脳のゴミを洗い流す「脳脊髄液」とは?
脳脊髄液による脳のゴミ出しは、深い眠りの中で行われる
「実は、脳脊髄液による脳の老廃物処理システムが発見されたのは、近年になってからです。脳にはリンパ管がないため、脳内の老廃物がどのように処理されるかは長年の謎だったのです。 その謎が解明されたのは2013年のこと。アメリカ・ロチェスター大学の研究チームが、脳の血管周囲に密着している『グリア細胞(神経細胞以外の脳細胞の総称)』が、血管の周りに脳脊髄液を循環させる水路のようなルートを作っていることを発見。そこで老廃物処理や栄養補給が行われていることが明らかになりました。 この脳内リンパ系システムは『グリア(glia)』と『リンパ系の(lymphatic)』を合わせて『グリンパティックシステム』と命名されました」
グリア細胞の一種で最も多い。突起が星(アストロ)のように見えるため「アストロサイト」と呼ばれる。突起を伸ばして脳内を走る毛細血管から神経細胞に栄養を運んだり、外界からの不要な物質が入り込まないようバリアの役目もする。
脳の排水路はノンレム睡眠時に開かれる!
脳のゴミ出し機関、グリンパティックシステムが最もよく働くのは、ノンレム睡眠中のいちばん深い眠りのときだ。
《日中の脳のグリンパティックシステム》 日中は神経細胞(ニューロン)やグリア細胞が活発に働くため、脳内は脳細胞でギュウギュウに埋め尽くされ脳脊髄液の流れは緩慢。老廃物がたまりやすい。
《ノンレム睡眠時の脳のグリンパティックシステム》 起きているときは活発だった神経細胞もノンレム睡眠の深い段階に入ると休息モードに。グリア細胞もおとなしくなって小さくしぼむ。グリア細胞が小さくなることで脳内に隙間ができるので、脳脊髄液の通り道ができて、脳にたまった老廃物もしっかり洗い流される。
脳脊髄液の流れが悪化すると、認知症のリスクも上がる
「ノンレム睡眠の中で深い睡眠がきちんと確保できれば、脳脊髄液が脳の老廃物をしっかり排出してくれて、翌朝の目覚めもすっきり。頭がよく働いて、日中のパフォーマンスも上がります。 ところが眠りが浅いと、脳脊髄液の流れが悪化し、日中に出た脳の老廃物が回収されず、脳内はゴミ屋敷状態に。脳の疲れが取れず目覚めも悪く、頭が回らない、イライラする、疲れやすいなど、不定愁訴が出てストレスがたまりやすくなります。 脳の老廃物が十分に流されないと、アミロイドβなど有害なタンパク質も脳に蓄積しやすく、認知症を引き起こすリスクも高まります。 眠りの質の低下は、脳脊髄液の流れを阻害する最も大きな要因ですが、その背景には交感神経の上がりすぎがあります。 夜遅くまで活動し、眠る直前までスマホをいじっている現代人の生活スタイルでは、夜になっても活動の交感神経が上がりっぱなしで、リラックス時に上がる副交感神経が下がったまま。それでは神経細胞が休まらず、脳脊髄液の流れる余地がありません」 脳脊髄液の流れをよくするには、交感神経と副交感神経が適度に入れ替わるメリハリと、同じくらいの時間で働くバランスが肝心だと根来教授。 「そのためには原点に立ち返ること。早寝早起き、規則正しい3度の食事、適度な運動って、もう耳にタコでしょうけれど、こういった基本的なことの積み重ねが体年齢に歴然と反映されるのです。 シンプルな暮らしで眠りを整えて、脳脊髄液の巡りをよくし、頭の中もすっきりさせていきたいものですね。と、生活習慣を見直しつつ、次回は脳脊髄液の流れを改善して、睡眠中のゴミ出しをスムーズにするためのセルフケアを伝授します。お楽しみに!」